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遺伝子_8

「ええっ!?な、何……どしたの?こんな微妙な時期にイメチェン?何事?」 大学の構内にて、友人の第一声だ。 「うるさい」 「いやだってトレードマークの瓶底眼鏡が……これは一大事だぞ?なんだ?女か?脱童貞か?」 「違う。たまたま気分が乗っただけ」 「ふーん、気分ね……」 怪しいと言わんばかりにまじまじと見られれば良い気はしない。 「……何?」 「いややっぱ綺麗な顔してんだなって。普段はわかんねーけど、改めて見るとさ。お兄さんもすげー格好良いけど、葉月も負けず劣らずだと思うぞ?」 「何それ。お前が言うと気持ち悪い」 「酷くね!?まあ、でも冗談抜きに普段からコンタクトの方がいいんじゃね?ほら、めっちゃ視線浴びてるし」 言われて周囲を確認すれば、確かにちらほらと目が合う。 「………明日は戻す」 「えー!?勿体ねー!」 「だからうるさい」 注目浴びてるの、コイツの声のせいじゃないのか? 迷惑なやつ……。 横目で見やれば「何何?照れるー!」なんてまたしても喧しくなったので、本格的に無視することを決意した。 そろそろ次の講義が始まる時間だ。 相手にするだけ無駄だと、足を動かし始めると肩を捕まれ行く手を阻まれる。 まだ何かあるのかと、堪らず眉間にシワを寄せ振り返れば、予想外の人物が視界に映った。 「……兄さん」 肩を掴んだのはムッとした表情を浮かべた兄さんだった。 たった二日振りだと言うのに、ひどく懐かしさを感じる。 いつも飄々としている表情が窺えないところを見ると、機嫌はまだ直っていないらしい。 言葉に詰まっていると肩に置かれていた手が腕を掴み直して、俺の身体を引っ張っていく。 「え、兄さん……?」 「………来て」 やはり機嫌は損ねたままだ。 黙っている方が賢明だと判断して身を任せることにする。 連れて行かれたのは人気の少ないトイレだった。 この前のキスの事を怒鳴られでもするのかと思いきや、その期待は大きく外れた。

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