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遺伝子_9

「……眼鏡は?」 「え……?ああ、気分でコンタクトにしてみただけ」 「……今、持ってる?」 意図の掴めない問いに内心首を傾げつつも、予備で持ってきていることを伝える。 「……そ。じゃあ外して、コンタクト」 「え…………」 「早く」 促されるように背中を押されて、鏡の前に立つ。 何なんだ一体……と疑問は浮かぶばかりだが、言われるがままコンタクトを外していつもの眼鏡を掛けると鏡越しに腕を組む兄さんが見えた。 下を見つめたままの視線は重ならない。 外したよと声を掛けても壁に寄りかかったまま、全くこちらを見ようともしない。 「……兄さん、聞いてる?」 「………知ってた?」 ようやく開いた口からは、心当たりのない問い掛けだ。 「何が?」 「とぼけないでよ……知ってたんだろ、俺が葉月のこと好きだったって。だから、からかってあんな……」 「………え?」 「だから、からかったんだろ……俺のことさ。でも何もキスまですることないだろ……俺がどれだけ傷ついたと――」 「え、いや違っ……俺は本当に兄さんが好きで、だから……」 「……え?」 「え…………」 やっと上げられた顔は驚きに目が見開いていて、次の瞬間には白すぎる肌がみるみる朱色に染まっていく。 釣られて俺の頬も熱くなるのを感じて、堪らず逃げ出したくなった。 それは兄さんも同じだったようで、急に動き出したかと思うと足取りはトイレのドアへと向かい始める。 「ちょっ――待って、兄さん!」 ほぼ同時に動いた俺は走る背中を追ってドアノブに掛かった手を掴んだ。

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