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第1話 3/4

【Seiji side】 「ごめんねっ、遅くなって」 「あっ、ううん、いいよいいよ」  白Tシャツに紺のカーディガンを羽織った姿で千紘が裏出入り口から出てくる。 「………………………」 「………………………」  しばらく黙りこみ、静かに空の星を見つめる。 「「あの」」 「あ、…………ど、どうぞ」 「え、あの………聖司さん、こそ」 「や、でも…………誘ったのそっち、だし………」 「あ………うん、」  千紘は薄暗闇の中でもわかるくらい、頬を紅潮させ、うつむいては長いまつ毛を何度もしぱしぱと瞬かせる。  涙目? なのか、まつ毛が揺れるたびにキラキラと光が反射する。 「キレイ、だね…………」  つい、口からこぼれてしまった。 「えっ?」 「あっ! やっ………あの、千紘ってきれいな顔してる、って思って」 「っっ!!」 「や、普段は可愛いな、って思って、たんだけど………あ、ごめん! 急に変なこと言いだしてっっ!」  だめだ。気持ちが抑えきれなくなってしまう。 「あの、さ…………俺、実は、」 「待って聖司さん! あのっ、僕っ、僕ねっっ」  こちらを向いて、まっすぐに俺の目を見つめる。  ほのかに情熱を帯びていて、純粋な、まっすぐな瞳。  その瞳が徐々に潤んでいき、何か言おうとしても、すぐに噤まれる。 「………ねぇ、もし、俺の勘違いじゃなかったら………俺のこと、恋愛的な意味合いで意識してくれてる、とか?」 「………………………」  黙ってこくり、とうなずく姿にさらに動悸が激しくなる。 「………よかった………」 「え?」 「お、俺、も、千紘のこと………ずっと気になってて。  もちろん、恋愛的な、意味で………」 「ホント、に?」  俺はうなづいて、千紘の肩に手を置く。  緊張してるのか、小刻みに震えている体。 「あのさ、千紘………この店だけじゃ、なくて………これからは店以外でも会いたいっつーか、つまりはその、………恋人、になってほしい、つーか」 「…………僕も」 「ん?」 「僕も、聖司さんが好き」  そう言って、はにかみながらもふわりと微笑む。  ああ神様!!!  脳内でファンファーレが鳴り響く。  キキーーーーーーッッ!!!  と、その脳内BGMをかき消すように車のブレーキ音が聞こえる。  そして、バタンと車の扉が開かれると一人の男が飛び出してきた。 「……………?」 「? …………神谷、博士?」  訝しげになる俺に、千紘がその男に声をかける。 「あぁちーちゃん! ちーちゃん、僕は君が好きだ! さぁおいで、めくるめく甘い時間をこれから私と過ごすんだ!」 「「…………………………」 」  二人でぽかん、とする。 「千紘………あの、この人、って………」 「神谷薬局の店長さん。でも有名な科学者らしくって、色んな役に立つ薬を作るすごい人だって聞いてる、んだけど…………」 「そ、そんな奴が、なんで急に、」 「おい! なんだ貴様は凡人の分際で! ちーちゃんから離れろ!!」  何が起こってるのかわからないまま、その神谷という男は力づくで千紘の腕を引っ張る。 「やっ…………」 「ちょっ、何やってんだよアンタ!」  驚きと恐怖で顔を歪ませた千紘に、思わず俺も手が伸び、負けじと千紘を奪い返す。 「さぁちーちゃんおいで? 君の恋のお相手が迎えに来たよ」 「え………僕、いま聖司さんに告白されたばかり、だし」 「は!?!?!?!?!?」  あっけにとられる顔に、俺も付け加える。 「あの、何のことかわかりませんけど、千紘と俺は恋人になって、」 「…………ふ。それは大いなる誤解だね」 「は?」  一瞬動揺を見せたものの、神谷はすぐに余裕の笑みを見せる。 「ちーちゃんに一週間前から薬を与えてたんだよ………恋愛感情が高ぶる薬。  今日をピークに告白する人間にときめくようにね…………つまりは! 君が先にそれを行っただけで、必ずしもちーちゃんのお眼鏡にかなって選ばれたわけじゃない、ということさ」 「っ、え…………?」  高らかに宣言され、動揺するのは俺の番で。  今日、話があるって声をかけてくれたのは。  その薬とやらで操作されて導かれただけ、ってことか?  いや、最初に話があるって言ったのは千紘なんだし、決して俺からではない。  だけど。……………だけど。

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