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第2話 3/5

【Seiji side】  ちょっと急な誘いだったかな…………。  仕事を終え駅を出て歩きながら、少し恥ずかしくなる。  自営だから明日のスケジュールだってきっとあったろうし、今日のうちに調整してくれてるのかな。  でも、どうしても二人きりになりたい。  定食屋で二人で語る時間も楽しいけれど、もっと、深く、色々と………やっと、恋人になれたんだから。  と思いつつ、やっぱり顔はニヤつきそうになるし、赤くなってしまう。  パンパン、と頬を叩いていつもの店の引き戸を開ける。  …………と、いるべきはずの千紘の姿がない。  思わずあたりを見回してると、千紘のお母さんがオーダーを取りに来て。 「聖司くん、いつもありがとうね」 「あぁ、はい………あの、千紘、さんは?」  他に客が二人いたので、小声で問いかける。 「ごめんね、なんか夕方から体調悪くなった、って部屋にいるのにわざわざ電話で言ってきて…………」 「えっ?」 「それで部屋にこもりっきりで………様子も見に行こうとしたんだけど、布団にくるまったまま入ってこないで、って言われちゃって」 「えっ? だ、だって、今日、」 「うん、聖司くんの家に行くって約束したって午前中は嬉しそうに言ってたんだけどね、どうしちゃったのかしら」 「………………………」  ど、どうしたっていうんだ、千紘。今朝会った時もいつも通りだと思ってたのに。  と、 「ねぇあれでしょ? 聖司くん、うちの千紘とお付き合いしてるんでしょ?」 「なっっ!!」  お母上様(謎の敬称)に耳元で言われ思わずのけぞり、椅子から転げ落ちそうになる。 「えっ、あのっ、お付き合いってのはそのっ…………」 「あぁ、うちの千紘はもうそういう話はずっと前からしてくれてるから………だからこの店は弟に譲ってあげて欲しい、ってお願いもしてくれてね。  あ、でも家族内だけの話だから。内緒にはしててね?」 「は、はぁ…………」  ず、ずいぶんオープンな家族だな。  そうか、千紘の朗らかさはやぱしこういった家族で育ったおかげなのか。 「あ、じゃ、じゃあ俺、様子見に行ってもいいですか?」 「うん、そうしてあげて。裏口の鍵あけるから入ってすぐ階段昇って、突き当り右の部屋が千紘の部屋だから」 「わ、わかりましたっっ」  慌てて店を出て、こないだ告白成功した例の裏出入り口へ向かい、ドアを開け階段を駆け上り、千紘の部屋、というドアの前に立ち、とりあえずノックする。 「千紘? 千紘いるか?」 「聖司さ…………ダメ! 入ってきちゃダメ!!」 「なんだよ、どうしたんだよ!?」  鍵の無いドアだから仕方なくそのまま突入、お母上様の言う通り、千紘はベッドの上ですっぽり布団をかぶっている。 「千紘………千紘、どうした?」 「ダメ………見ちゃダメっ…………」  千紘の声はどんどん涙声になっていって。 「なにかあったのか? 顔か? 顔に何かできたのか? 肌にぽつぽつでもできたか? じんましんか? うつるのか?  俺、そういうの別に気にしねぇぞ? 風疹もおたふくも経験してるし」 「ちがっ………とにかくダメ、なのっっ……………」 「いいから、ちゃんと見せてみろって!」  頑なに掛布団を抱いてるのを無理やり引きはがす。  と、まずぴょっと出てきたのはウサギのような薄茶色の長い耳で。 「っ、ぅわあぁっ! なっ、なんだよこれっっ!!!!」  さすがに俺も一瞬息を呑み、叫ばずにはいられなかった。

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