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第2話 4/5

「……………ぇっく、聖司さん……………」  千紘は観念したように起き上がり、さらに顔を覆って泣きだす。 「どうしたんだよ、一体、なんでこんなことに!?」 「わかんない。お昼食べてちょっと横になって起きたら、こんなことになってて…………」  千紘の頭についてる耳はちゃんと神経が通ってるかのようで、ずっとぴくん、ぴくん、と蠢いている。 「なんで普通の人間が急にこんなことに…………」  と、そこでハッとする。 「、アイツか? あのおまえをどうこうするとか言ってた男か?」 「でも、会ってないよ?」 「バカ、最初の惚れ薬だって知らないうちに飲まされてたんだろ?」 「っっく、うん…………」 「よしわかった、行くぞ! なんかニット帽みたいのあるか?」 「うん、」 「それかぶってあの野郎のところへ行って解毒剤もらってくるぞ!」  千紘の手を取って部屋を出て、二人で商店街を走る。  そして神谷薬局に着く………は、いいものの、営業時間はすでに終わってたのか店内は真っ暗になっている。 「くそっ、どこ行きやがったアイツっ………」 「聖司さん、あっちに研究所の入口があるから………」 「そんなもんまであるのか、じゃ、そっちに行ってみるぞ」  千紘の案内で店の裏へ回り、「神谷健康開発研究所」と書かれたものものしい入口のドアを叩く。 「おい神谷! オマエまた千紘になんかしただろ!」 「あぁっ! ちーちゃん待ってたよ!!」  バッとドアが開き、なぜか頭に包帯を巻いた神谷が顔を出したかと思えば、千紘ではなく俺の腕をいきなり両手で引っ張り、腰を落としてぐるりと回転、 「なっ……………んがっ!」  ドンガラガッシャーン!!  その遠心力で飛ばされた俺は、これまたなぜか積まれてた一斗缶に突っ込む。 「いった………ちょ、」 「聖司さんっ! 大じょ、っ、」 「ちーちゃん、さ、おいで!」  一斗缶に埋もれてる俺をよそに神谷は千紘の手を引いて、ニット帽をサッと取り、部屋の角に追い詰める。 「やっ…………何っ」  パシャーッ、パシャーッ! 「あぁ、ちーちゃん(はぁはぁ)、うさ耳を付けたちーちゃん(はぁはぁ)、お耳がぴくぴく動くんだね!(はぁはぁ)可愛い! 実に可愛い!(はぁはぁ)」  パシャーッ、パシャーッ! 「やっ………やだ、やめてっ………!」 「ほら、しっぽも見せてごらん? 大丈夫、恥ずかしくないよ?(はぁはぁ)」 「おいオマエいい加減にしろ! ほとんどレ×プじゃねぇか、警察呼ぶぞ!」  何とか脱出して千紘のジャージ下に手を伸ばそうとする神谷の腕をつかんで引きはがす。 「聖司さんっ! っ、ふえぇぇん!」  そして千紘は泣きながら俺に抱き着く。  そして神谷は相変わらず動じない。 「…………ほう、警察? この状況をどう説明するつもりで呼ぶのかね? その可愛いうさ耳のちーちゃんを警察どもにも見せて実地検証するとでも?」 「ぅぐっ、で、でも俺にやったのはれっきとした傷害だぞ、ちゃんと怪我もしてるしっっ!」  あちこちぶつけたおかげで体中痛いし、間違いなくアザもできてるだろうし。 「あぁ、私は護身術もたしなんでるんでね。まさに文武両道のスペシャリストだ。  君から並々ならぬ殺気を感じたからつい体が自然に動いたまで…………つまりこれは立派な正当防衛、というわけだ」 「アホかぁっ! ご丁寧に一斗缶まで用意しといて完全に計画的だろうが!」 「ふふ、私のような天才科学者はいついかなる時でも生と死のはざまで、」 「マヌケな包帯姿でごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ! 千紘が困ってるんだからさっさと元に戻してやれつってんだよっっ!!」 「ん? 元に戻してほしいと君は言うのかね?」  相変わらず余裕の笑みを浮かべる神谷。  つかどっから来るんだよ、その自信はっっ。 「君はそのうさ耳姿のちーちゃんじゃ愛せない、と言いたいわけだね?」 「ちっげぇよ! なんでそう論点ズレまくった発想にいくんだよ!」 「ちーちゃん、大丈夫だよ? 僕はそんな姿でも愛してあげるから。  さぁおいで、おセックスしようね? セックス、知ってるかな?」 「………………(絶句)」 「たっぷり愛してあげて、最後にその体にたっぷりの精液を注いであげよう。そうすれば元に戻るよ?」 「っ、はぁ?」  こいつ本当に何言ってんだ?  ガチで狂ってるのか?←正解です。 「あいにく、元に戻すにはそれしかない。ちーちゃんの体に男性の精液を注げばいいだけ。  うん、飲んでもらう、というのもアリだな」 「ナニ下劣なことを考えてんだおまえは! その技術をもっと人の役に立つことに使えよ!  …………ん? でもおまえ、いま男性の、つったな?」 「いかにも」 「俺でもいい、ってことか?」  そう言って、千紘を見つめる。  千紘はすっかり怯えてしまって、長い耳はぺたり、と伏せられている。 「………………………」 「どうした? できるというのかね?」 「やっ、そういうことじゃなくてっ…………」  確かにまだ目が慣れないけれど、千紘への気持ちは変わっていないし、抱く、ってなったって抵抗はないはず。  でもこんな状態で抱くなんて、目の前の神谷と同じド変態に成り下がるってことじゃねぇか。  元に戻すため、が前提なんて千紘が許してくれるかだってわからない。 「ん? ………やっぱり無理なようだね」 「ちがっ、おっ、俺はっ…………」  それに、なんで初めての夜だってのにこんなことになってしまうんだ………俺は混乱で言葉が出なくなってしまった。 「さ、ちーちゃんおいで? 私が忘れられない夜にしてあげるよ」  戸惑っている俺をよそに、神谷は千紘に手を差し出した。

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