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第2話 5/5

「やだ! 僕は聖司さん以外の人とエッチなんかしないし、絶対したくない!」  千紘がそう叫び、俺の腕にすがりつく。  その耳はまるで意思表明かのように今度はピンと強く立ち上がっている。 「千紘…………」 「ち、ちーちゃん………でもその男を見てごらん? ちーちゃんを見て戸惑ってるようだよ? どうやって致すというんだい? あとエッチって言い方可愛いね」  もう一度、俺は千紘を見る。 「いや、俺は今のオマエがイヤだって言いたいわけじゃなくて、」 「大丈夫、絶対になんとかする、僕、頑張るから!  僕、…………聖司さんの精液だったら飲めるから!」 「ぶふぉっ! おまっ………」 「ちっ、ちーちゃんっっ!」  千紘の爆弾発言に、俺ばかりでなく神谷もガツンと衝撃を受けたようで。 「ち、ちーちゃん…………君のその可愛いお口から、そんな卑猥な言葉が出てくるなんてっっ…………」  めまいを起こしたように、神谷は壁にふらふらと手をつく。  が、もちろん。 「ふっ、ふははははははは!!!! 結構、結構!  ちーちゃん、君と隠語プレイも楽しめるわけだね! しかも精飲までしてくれるとはまさにフルコースじゃないか!!」  意気揚々と不死鳥の如く立ち直る神谷。 「だっ、だから僕は博士とはしないって言ってるのにぃ」 「つかもう黙ってろよ神谷テメェは!」 「何? 黙るのは貴様の方だ………許さんぞ、おまえだけは許さん。清らかで美しいちーちゃんをこんな風に汚しやがって…………!」 「知るか! 俺だってびっくりしてんだよ!」 「聖司さん、帰ろ? 聖司さんち、早く行こ?」  千紘が手を引き、ドアを開ける。 「ちーちゃん、覚えておいてね? 僕はいつもここにいる、君を待っている…………いや、必ずや迎えに行くからね? そこの男、せいぜい今だけの甘い時を楽しむがいい!」  なんかイカレた笑い声がまた聞こえたけど、そのまま外に出てドアをバタン、と閉めた。 ◆◆◆ 「はぁ、もうワケわかんねぇよ……………」  案の定、腕や足やらにさっそく青あざが浮かび上がっている。 「聖司さん、大丈夫? 冷やした方がいいよね? 氷ある?」 「あー、うん……………」  部屋につき、ニット帽を取った千紘は冷蔵庫へパタパタと走っていく。  その後ろ姿を見た時、おしりの辺りももそもそ動いてるのが見える。  …………そういえば、しっぽがどうとか言ってたな、あの男。 「聖司さん、持ってきたよ! ちょっと当てててね………あ、おなかとか背中の方も大丈夫?」 「あぁ、うん………多分、全身ヤバイかも」 「じゃ、脱いでちゃんと冷やさないと!」 「ぬ、脱ぐっておまえっ、今すぐ裸になれってことか!?」 「うん、だってこういうのはすぐに手当てしないとってどこかで読んだもん!」  あくまでも千紘は俺の青あざのことを心配してるみたいで。 「………ごめんね、聖司さん…………」  そして耳を伏せ、目に涙をいっぱい溜めて俺を見つめる。  不安げにふるふる揺れてる耳を改めて落ち着いて見ていると、愛しさとはまた違った感情が湧き上がってくる。 「いやいや、千紘のせいじゃないよ、あの男がおかしいだけでオマエは立派な被害者なんだから。  トラウマとかになったら診断書作れよ?」 「うん、大丈夫………でも、聖司さんこそひどい目に遭って、」 「俺は平気だから。アザなんてそのうち消えるだろうし…………千紘こそ怖かっただろ? 大丈夫か?」  そのまま自然と手が伸びて、震える耳に触れる。  すると体も耳もピクッと反応する。 「…………な、なぁ、」 「ん?」 「しっぽもある、んだよな…………?」 「………うん、あるよ。あのね、動くともぞもぞしてくすぐったくて………」 「そっか。み、見せてくんね? いやっ、いやらしい意味じゃなくてっっ!!」  ん? …………違うな。 「いや、…………ごめん、正直下心あり、で。てゆうか、………こんな気持ちでいてもオマエは許してくれるのか?」 「大丈夫だよ聖司さん、どんな気持ちでも僕は嬉しいから」 「…………ありがとう千紘、オマエと恋人になれて、本当に良かったよ」 「うん、僕も同じだよ」  微笑む千紘に俺はまた耳を撫でると、千紘は恥ずかしそうにうつむく。 「だっ、だから、聖司さんも…………脱いで、ね?」 「あ、あぁ、わかった。俺も脱ぐ、から」  互いに背中を向けながら服を脱いで、せーので振り向く。  アザだらけの俺と、うさぎの耳としっぽが付いた千紘。  思っていた以上にダメージを喰らってたようで全身にアザが浮いている俺。  そして千紘が言った通り、しっぽはせわしなくピコピコと動いている。 「……………プッ」 「っ、ふふっっ」  なんだか間抜けで妙ちくりんで二人で笑ってしまう。  二人きりの、不思議な世界。 「千紘、」  そのまま、抱きしめる。 「あのっ、オマエを元に戻すために、って意味じゃなくて、」 「うん、わかってる」 「…………好き、だよ」 「僕も、聖司さんが好き。ずっと、ずっと」  引き寄せられるようにキスをする。  何があろうと、俺たちは絶対に離れない。  ……………そんな決意も互いに強く抱きながら。

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