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第3話 1/4

【Seiji side】  晴れ晴れとした空、心地よい風の吹く土曜日。  前々から興味のあった、千紘が属しているという野球チームの見学を一度してみたく、一緒にグラウンドにやってきた。 「じゃ、行ってくるね、聖司さん!!」 「おーぅ、頑張れよー」  背中にどどんと星のマークの付いたユニフォーム姿も凛々しく、千紘は笑顔で手を振って、野球仲間の中に入っていった。  チームメイトは商店街やその周辺に住む野球好きのおっちゃんがメインでありつつ、千紘くらいの何人かの若い子もいて、勝敗にこだわるような緊張感もなく、愛好会、といった言葉が似合うようなほのぼのとした雰囲気である。  とはいえ、恋は盲目、というか贔屓目もあるのか、メンバーの中にいてもとりわけ千紘は活き活きと輝いて見え、プレーもしっかりしてるし、周りの人たちも楽しそうに話しかけたりしていつものように可愛らしい笑顔で場を和ませている。  昼にいったん休憩、ということで千紘が笑顔で戻ってくる。 「聖司さん、大丈夫だった? 野球だから見ててどうかなって………」 「ん? 全然大丈夫だよ。見てる間にもなんかいろんな人にお菓子とか飲み物もらえたり。  …………つかすごいな、みんなすごい楽しそうだし」 「でしょ? 商店街の人、みんな仲良しなんだよね!」  と、 「…………ん? あっ! 今日はカレーだぁ!」  急に目の前で千紘がさらにぱぁっと笑顔になる。 「え、カレー? ………あ、確かに。…………あれのこと?」  思わずあたりを見渡すと、主婦の方が何名か、建てられたテントに大きな鍋を持ち込んできていて、徐々にみんなも集まり始めている。 「あのね、近所のおばちゃんたちがね、お昼になったらこうやっていろいろ作ったのを持って来てくれるの!  豚汁とかお雑煮だったり、いなり寿司とかおにぎりと唐揚げだったり」 「へぇ、やっぱり結束力すごいな、この商店街って」 「僕らも行こ行こ!」 「えっ、でも俺部外者じゃね?」 「大丈夫、ここに来てくれた人たちみんな仲間だから」  千紘に手を引かれ、俺たちもカレー鍋の方に足を運ぶ。 「おばちゃん、いつもありがとう!」 「はい、どうぞ。ちーちゃん、今日はお友達と一緒?」 「うん、うちの店の常連さんなの!」 「そう、はい、あなたもどうぞ」 「あ、すみません、ありがとうございますっ」 「福神漬けは隣だからね」  その隣には大きなタッパーに福神漬けを詰めた人がいて。 「はい、好きなだけ取ってってね」 「ありがとう! おばあちゃんの漬物、僕大好きなんだ!」 「ありがとうね、ほら、そちらの方もどんどんもらってって」 「あ、はい」 「この福神漬けね、おばあちゃんの手作りなんだよ。福神漬けだけじゃなくてね、おばあちゃんのお店の漬物は全部手作りだし、この福神漬けがカレーに一番合うんだよ!」 「またぁ、ちーちゃんは口が上手いんだから」 「へぇ、美味しい漬物って最近減ったもんな、ありがとうございます、いただきます」  善良なおばあさん、を絵に描いたような人に笑顔でタッパーを差し出され、スプーンですくってカレーに添える。  賑やかな笑い声の中、二人で並んで昼食をとる。 「なんか………いいなぁ、こういうの」 「ん?」 「こうやって天気のいい日に外でこうやって飯食う、って。なんか学生時代の林間学校とか思い出すよ」 「あー、みんなで作って食べるのおいしいよね!」 「そういえばキャンプもご無沙汰だなぁ………」 「僕もそうだ。………ねぇ、今度一緒に行ってみようよ」 「あぁ、そうだな。なんかきれいな川縁のところ探して、釣りしてバーベキューだな」 「最近はいろんな料理が作れるんだよね、僕はレシピ探してみるから!」 「おぅ、楽しみにしてるよ」  ほんわかとした時間。普段見ない、千紘の姿。  あぁ、こういう幸せっていいなぁ…………。 「はーい、お二人さん、デザートいかが?」  と、背後から同じユニフォームの男が声をかけてくる。 「あ、いっちー!」 「お話し中ごめんね、………あ、初めまして、市原です」 「あぁ、どうも…………成田といいます」  野球のプレー中でも一番千紘と仲良く話してた男だ。  人懐こい顔をしていて、俺にも明るく笑顔を向ける。 「見かけない顔って言ったら失礼だけど、近所に住んでるの?」 「あぁ、うん。駅から商店街抜けたとこに家があって、」 「毎日ね、その途中に僕のお店に来てくれるの」 「へぇ、仲いいんだね」 「えっ? うっ、うん、常連さんだしね!」  ちょっとしどろもどろしながら千紘は答える。 「ふーん。でも成田さん見学だけでいいの? このチーム、メンバーはいつでも募集中だし」 「いや、俺、野球は全然わかんないから」 「そうなんだ………あ、これ今配ってるんだけど、まだ冷たいうちにぜひ二人で食べて」  そういって、二つのプリンをそれぞれの手に渡してくれる。 「ありがとう!」 「じゃ、他にも配ってくるから」  見送りつつ、さっそく二人でプリンを食べる。 「あー、こういう時の甘いものってすごくおいしいねー」 「あぁわかるよ。たまにしか口にしない分、疲れた時に妙にありがたくて染みるんだよな」 「ね? 甘いものってなんかうれしいね」  ひと匙すくっては口に運ぶプリンは、冷たくなめらかに溶けてゆく。  改めて見る青空。  千紘の隣にいることに、改めて幸福を噛み締めていると。 「千紘ー! 腹ごなしにキャッチボールしようぜー!」  遠くから、さっきの市原ってやつが笑顔で千紘を呼ぶ。 「んーわかった!! じゃ、聖司さん、また行ってくるね!」 「おぅ、わかった」  そういって残りのプリンをかきこむと、千紘は再び楽しそうに走って市原の方に向かっていく。  俺も残りのプリンをスプーンですくって食べつつ、その姿を眺めていた。

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