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第3話 2/4

 日も暮れかける商店街。 「あぁ、こういう時間帯の雰囲気って悪くないなぁ、商店街にぴったりというか」 「うん、すっごくわかる」  二人並んで、そのまま俺の家に向かう。 「…………はぁー、今日は楽しかった」 「あーそう」 「聖司さんが見ててくれたからなんかいつもより張り切っちゃった!」  そう言って、いつもの笑顔を見せてくれる。 「ったく、ほんとオマエ、可愛い笑顔してんな」 「え?」 「えっ? あっ、いやっ…………何言ってんだ、俺」  赤くなって思わず口を押える。 「でも聖司さん、ずっと見学だったでしょ? ホントは退屈じゃなかった?」 「えっ? んーまぁ、退屈っちゃ退屈だったけど」 「あっ、そうだよね、ごめんね?」 「いやそのっ、退屈っつーか、なんか面白くねぇなとは思ってて」 「えっ?」 「だってオマエさぁ、他の人たちにもさっきみたいな笑顔しててなんか気が気じゃなかったつーか。特にあの市原って男」 「へ?」 「あっ、いや別にそんなこと言いたいわけじゃないんだけどっ」  でも口からは思ってることがそのままポロポロ零れ落ちるようで。 「終始仲良くしゃべってるしなんかベタベタしててさ………ずっと昔からそうだったんだろ?」 「た、確かにそうだけど………いっちーはただの友達、だよ?」 「そりゃ分かってるけどさ、あれだけ仲良けりゃ話せるだろ? 俺らの事。  つか、親には言っててあいつにはカミングアウトしてないんだ」 「ううんっ、ちゃんとカミングアウトしてるよ!」 「だったら余計に言うべきじゃね? 友達、ってんならなおさら」 「違っ、ただ、なんか恥ずかしいから言えなくってっ、ご、ごめん…………」 「なんかごまかしててさ、ますます仲間外れな気分っていうか」  言いながらまた口を押える。 「な、なんだ、俺…………」 「聖司さん、どうしたの? …………っ、聖司さん危ない!」  キキーッッ!  つい呆然としてるとふいに千紘に腕を引かれ、ハッとすると、目の前に自転車に乗った人が一瞬驚いた顔をしつつ、そのまま乗り直して去っていく。 「っおい、テメェあぶねぇだろ! すみませんくらい言えよ!」  そのまま振り返って叫んでいる自分。  向こうの人はビクッとしながらも逃げるように去って行って。 「聖司さ、」 「ったく、ここの商店街内はみんなちゃんと自転車から降りて歩いてんじゃねぇかよ、なんだよあいつ、我が物顔で走ってんじゃねぇよ、ッチ、ったく」 「…………………………」  千紘は目を見開くようにして、俺を見つめている。 「あっ、違う! 俺別にそんなこと言いたいわけじゃなくてっっ! ………やっべぇな、疲れてんのかなぁ」 「きょ、今日はずっと見てただけだったもんね、そういうのって意外に疲れるし。早く聖司さんちに行って、夜はゆっくり過ごそ?」 「や、それは困るよ。明日休みなんだから夜はがっつり千紘とヤリてぇし」 「せっ、聖司さんっっ」  サァッと赤くなる千紘にますます焦る。 「や、だってほぼ一日千紘の野球に付き合ったし? 夜は俺ががっつりやりたいことやったっていいだろ?」 「っ、そうだけど………こんなところで…………」 「やっ…………ちがっ」  さらに戸惑う千紘を見て、俺はさらに強く口を押える。 「なにこれ…………ちょ、わけわかんねぇんだけど…………」 「聖司さん、大丈夫?」 「ごめ、まともなこと言えねぇから、ちょっと話しかけないでくれる?」 「っ…………」  それから千紘は黙り込んでしまい。 「なんだよこれ、いったい何なんだよ…………」  俺はいつまでもいつまでも一人でぶつぶつぼやき続けていた。 ◆◆◆  そして会話は交わされないまま、俺の部屋に帰る。 「じゃ、じゃあ聖司さん、さっそくこれから晩ごはん作るから。  今日のためにね、スパゲティのプッタネスカ覚えてきたの!」 「おーいいね、ってぷったねすかってなんだ? まぁ、スパゲティならいっか。わかんねぇけど千紘が作るものだったらから間違いねぇしな。  …………はぁ、食生活が充実してるってマジ助かるなぁーっ!」 「あ、うん、ありがとうっっ………」 「って、なんで口に出して言ってんの俺…………」  少しひきつったような笑顔を向けて千紘が台所に立ち当然ながら、微妙な空気が流れてしまう。 「なんかおかしいなぁ…………ホント、変なこと言っててごめんな?」 「ん? いいよいいよ。やっぱちょっと疲れてるのかもね」  反省しながらリビングのソファに座って静かにキッチンを眺める。  するとその位置からこちらに背中を向けて右へ左へ千紘が動き回っている姿がよく見えて。  エプロンをキュッと結んだあたりの、腰のラインが細くって…………… 「はぁ、後姿もエロ可愛いなオマエ。あ~マジですぐさま襲いてぇ!」 「っ、え?」  びっくりして千紘が振り返る。 「そうやって台所で背中向けて動き回ってるとさぁ、よくあるじゃん? 後ろから抱き付いてそのままバックで犯すって。あれいっぺんやってみたいんだよなぁ、やっぱ男の憧れじゃね?  あ~、その振り向いた感じ、マジでやらしい体つきだよな、千紘って」 「なっ、なに言ってるの聖司さ、」 「恥じらう顔もいいなぁ。あ、裸エプロンもベタだけどいいよなぁ。千紘スタイルいいから超エロいだろうな、見てみてぇ。あ、こないだうさぎになった時にやってもらえばよかったな」 「ねっ、ねぇ、さっきからどうしたの?」  火を止めて、千紘が慌ててこちらにやってくる。 「あっ………ごめん、違うんだ、マジで。………ホントにさっきからわけわかんねぇんだよ、俺」 「…………ねぇ、聖司さん、」 「ん? 何だよ? ………そんな深刻な顔すんなよ、怖えぇじゃん」 「だからっっ、その感じ、………まさか薬、かなって………」 「は? クスリって俺そんなヤベェもんやってねーよ」 「ちがっ、その…………」  そこまで言って、千紘はどこかへ電話する。 「お、おい、ちょっとなんだよ、病院? 警察? まじやめろよオマエ、」 「あっ、あの………神谷薬局ですか? あの、神谷博士は………、あ、もしもし、………えっ、や、そういう話じゃなくて、」 「おいなんでそんな奴に、っ、あっ!!!」  さすがにピンと来て、千紘のスマホを取り上げた。

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