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第3話 4/4
【Seiji side】
「あぁもうくそっっ!!! ホントマジであったまくる!! てゆーか、世界征服でも企んでるレベルじゃねぇか! そのうちバイオテロとかとんでもないことしでかすんじゃねぇのか!?
あんなの野放しにしといていいのかよ、さっさと国外追放しろよ! つか、いっそロケットにくくりつけて宇宙に飛ばしちまえばいいんだよ!」
電話を切っても当然怒りは治まらない。
「聖司さん落ち着いてっ、このままじゃ聖司さんが、」
「わかってるよ! わかってる、けど…………!」
さらに頭の混乱も収まらず、どんどん感情が湧き上がり、そしてそれが口からこぼれだして止まらない。
「俺は千紘と二人きりで恋人の時間を過ごしたいだけなんだよ! 今日みたいにゆっくりのんびりしたいだけなんだよ!
ヤリたいだけじゃねぇよ! 今日だって千紘とごはん食べて、美味いねって笑いあって…………そういうのも幸せなんだよ! それがなんであの男はわかんねンだよ!
くっそ、マジで許せねぇ………あの野郎、邪魔ばっかしやがって…………!」
「聖司さん………」
千紘はオロオロしつつも立ち上がりどこかへ行く。
「つか、そもそもあの男いったいいつ俺に薬なんか盛ったんだ?
今日? ………は朝に千紘と喫茶店でモーニング食って、野球観戦中にお菓子とかお茶とかもらってて、昼はカレーとプリンだろ? でもお菓子もカレーもみんな食ってたし。
ん? じゃ昨日か? 昨日の朝は家でトーストとコーヒーだろ、昼間は千紘の弁当で、夜も千紘の店のメシ、会社でコーヒーとドライフルーツも食ったけど………あ、土産のパイ食ったな、あぁもう、絶対関係ねぇし!
じゃ、一昨日? 昼も夜も昨日と一緒で朝はコーヒーだけだったし、飲むゼリーを摂取したくらいか? じゃ、その前だったら…………」
頭をガシガシかきつつも口からは言葉が止まらない。
「っ、まさか商店街の誰かが神谷と結託して何かしてるとか? いやいや、あの人たちがそんなことするようになんか見えないし、いやでも、一人や二人、もしかして…………」
「聖司さん、」
「ん? …………んむっ!」
とんとん、と肩を叩かれて振り向いた途端、口にべたりとガムテープか何かを貼り付けられる。
「むむむっ、むもも………(おまえ、なにすn)」
反射的に剥がそうとした手を、千紘にしっかり押さえられ。
「聖司さん、思ったことが口に出ちゃうんでしょ? 言わなくていいことも出ちゃうの、きっとつらいと思うから。
…………だったら、ふさいじゃったらいいのかな、と思って」
「んむむむ…………」
「で、文字で書いてみるのは大丈夫かな、と思って………どうかな?」
そしてメモ帳とボールペンを手渡されてみると。
「…………むむっっ!?」
手は…………勝手に動かない。
「むっ! むむっっ!」
「なに、聖司さん?」
慌ててノートに文字を書く。
<OK! いける!!!>
「ほんと? よかった…………」
<え? ずっとこのまま?>
「今の聖司さん、焦っててどんどん混乱しちゃうと思うから。僕ごはん作ってくるし、少し落ち着いてみたらどうかな?」
「む…………」
「ほらほら聖司さん! 鼻で深呼吸!」
そう言って、笑顔で千紘は両手を広げる。
「むー、むむんむむー(あー、かわいいなぁ)」
思いつつふさがれた口で言いつつ、一緒に深呼吸する。
<ありがとう、ちょっと落ち着いてみるよ>
「うん、なんか聖司さん、いろんなこと考えてるんだね」
「ん? …………うむむっむんーんん? (誰だってそーじゃね?)」
「意外に怒りっぽいんだなとかちょっとビックリしたこともあったけど…………でも嬉しい本音も聞けたから」
「んん? …………」
でも。
<ごめん、傷つけるようなことも言ったよな? 引いただろ?>
「大丈夫だよ。僕のこと大事に思ってくれてるの、わかったから。
僕と同じ気持ちでいてくれてるの嬉しかったから、だから、ぜーんぶ帳消し!!」
また飛び切りの笑顔で両手を広げる千紘を見て、それでも俺の方は不安げに首をかしげてしまう。
<ほんとに?>
その文字に、…………千紘は少し恥ずかしそうにうつむいてから、潤んだ瞳でこちらを見つめる。
「だって………エッチなこと考えてるのは聖司さんだけじゃないよ。僕だって………言えないこと、いっぱい考えてるもん」
「むっ…………んんんんんん…………!!」
ビッ……………ビリリッ、
あぁ、もう我慢できない!!!
「…………千紘っ!」
バリリッッ!!!
そのままガムテープを剥がし、千紘を抱きしめ押し倒す。
「聖司さ、」
「ふざけんなよオマエ、なんでそんなに可愛いんだよ! マジ可愛すぎてたまんねぇよ!」
「もぉっ、あんまり可愛いとか言わないで………僕だって男の子なんだし、」
「可愛いんだからしょうがねぇだろ! な、いいだろ?」
そのまま、千紘の上着を脱がしにかかる。
「聖司さん、ごはんがまだ、」
「食欲より性欲が先だ! おまえが可愛いからいけないんだぞ!」
「なにそれっ、もぉっ…………」
顔を赤くして身じろぎする千紘を再び強く抱きしめ、キスをする。
「…………絶対渡さないからな。神谷だけじゃない、誰にも、どんな奴にも渡さないし絶対離さないから…………」
その耳元で心の底にある、ありったけの想いを告げる。
「って、あぁ、めっちゃ恥ずかしいこと言ってるしなんかモノみたいな言い方してるしホントごめん…………っっ」
「聖司さん…………」
「つか、この際どうでもいい、なぁ、オマエはどんなこと考えてんだよ? ここまで言ったんだから、オマエも言わなきゃフェアじゃないだろ?」
「だって、それはっ、」
「ほら、いいから聞かせろよ」
「~~~~~~っ、」
耳元で囁くと、千紘は恥ずかしげにもじもじし、そして俺の耳に口を寄せ、ごにょごにょと教えてくれる。
「あ、あのね、例えば……………」
「………っ、ぶふぉっ! おまっ、そんなことでいいのか!?」
「そ、そんなことって…………充分恥ずかしいよっっ!」
「もっとあるだろ? ちゃんと言ってみろって!」
「いいの! 僕、聖司さんだったらなんでもいいのっっ!」
さらに真っ赤になり、両手で顔を覆う。
「ったくよー…………ホントに可愛いなオマエ、」
「だから可愛いとかやめてってばぁ」
「悔しいけど、あの神谷がオマエに執着するのもわかる気がするよ………はぁ、なんか逆に気が抜けちまった」
そのままごろりと横になって向き合い、頭をなでる。
「オマエといると癒されるよ、ホント…………やっぱ今日はいろいろあったからな。
でもこうして二人でいると、…………千紘といると、それだけで俺は救われてるんだな」
「そんなの………僕も一緒だよ。聖司さんがいれば嫌なことも怖いことも、全部消えてなくなっちゃうもん」
「…………ありがとな」
二人で何ともなしに仰向けになって、窓の外を眺める。
「はぁ、きれいな夕焼けだな…………」
「そうだね」
「オマエとこういうの見られるの、ホント幸せだよ」
「うん、僕も………」
「これからもずっとオマエとこういう景色を見てたいな」
「ふふっ、僕も同じこと思ってた」
そっと、手を握り合う。
「………よし、腹も減ってるし、メシ作ってくれよ」
「うん、あ、聖司さんも手伝ってくれる?」
「あぁ、俺そういうのできない人間だから(目逸らし)」
「なにそれぇ、二人でやった方が早いよ!!」
「ダメだって、オマエ一人で作った方がうめぇんだからよー」
「いいからいいから!」
千紘が起き上がり、俺の手を引く。
「あーもう、ふざけんなよめんどくせぇなぁっっ! 俺マジで無理だって! だからオマエんとこに行ってメシ食ってんだろー?
…………ん? なんか思うまま言ってても今は平気だな」
「ホントに? よかった………じゃあこのまま二人でいても大丈夫だね! さ、それじゃ二人で頑張っておいしいプッタネスカ作ろうね!」
「いや、マジで俺手伝うの? ホントマジ勘弁って! つか、ぷっかねすた? ぷったねすか? なんなんだよ一体!!
………おまえアレだからな、夜になったらありのまま吐かせるからな!!!」
いつまでもぼやきながら。
それでも心地いい気分で俺は千紘に引きずられキッチンへ向かった。
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