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第4話 1/5
【Kamiya side】
「♪ち~ちゃん、ち~ちゃん、だ~れが好きな~の? あ~のね、はかせ~が~好~きなのよ~♪ ※ぞうさん」
「さすが博士、美声も麗しい(棒読み)」
神谷健康開発研究所内。
いつものようにパソコンで様々の薬の調合計算をする神谷博士はご機嫌に鼻歌を口ずさんでいます。
「さぁて、あの害虫からちーちゃんを守るため今度はどんな薬を作ってやろうか………」
ドンドンドンドンドン!
その時、めったに人の訪れない神谷(略)研究所の方のドアが強く叩かれます。
「………市原くん、」
「はい」
ドアホンの画面を見た神谷博士の命を受け、市原くんが隣の個室へ移動します。
そして軽く返事を返すと、一人の男が足音荒く中に入ってきました。
「おい、おまえが博士か?」
男は遠慮なしにずかずかと入り込み、神谷博士の前に立ちはだかります。
「………なんだね君は。あの和菓子屋の三代目カッコ仮の放蕩息子じゃないか」
和菓子屋というのは、星見ヶ丘商店街にある老舗の音羽堂本舗。
どうやらそこの息子、音羽壮哉(おとわそうや)という男がここに訪れたようです。
「いやぁ、よく知ってるよ。あそこの芋きんつばは私のお気に入りでね、」
「んなことどうでもいいよ。あんたいろんな薬を発明してんだろ? だったらひと一人惚れさせる薬くらいお手のもんだろ」
「ん? ………見たところ、女に不自由はしていない顔だとお見受けするが」
「女なんか興味ねぇよ。…………俺が狙ってるのは一人の男だ」
「ふ。何を言い出すのかと思えば…………」
あくまでも壮哉くんは横柄な態度を貫きますが、神谷博士は極めて冷静に受け答えをします。
「恋というものは己を磨き、努力し、ひたむきで純粋な思いを伝えることだ。
…………薬などという小賢しいものに頼るなど、まさに愚の骨頂」
「さすが博士。真理をついていらっしゃる」
隣の部屋の市原くんは冷静に答えます。
「俺は欲しいものを手に入れるためなら手段なんかどうでもいいんだよ。
………もちろん金なら充分にある。ありったけの報酬はするつもりだ」
「ふン、それこそ愚かな発想。私を誰だと思っている? たとえ数百、数千万の金を積まれたとて、私にとってはほんのはした金だ」
「っ、」
神谷博士の言葉に壮哉くんは悔しそうにダン! と床を踏みしめ、頭を掻きむしります。
「あぁくそっ! あんたなら何とかしてくれると思ってたのに!
っとにツイてねぇチクショウ! ………なんで俺よりあんな定食屋のバカ息子なんかに………!」
「ん? 定食屋?」
神谷博士の眉がピクリと動きます。
「…………君、それはふたば亭のちーちゃんのことか?」
「あぁそうだよ! あの脳みそがフルーチェかなんかでゆるんゆるんしてるようなおめでたい男だよ!」
「それは違うな。あの愛しのちーちゃんの脳に詰まっているのはもっとこう、ふんわりとした甘い甘い、」
「博士、今は彼の言葉に耳を傾けるのが得策かと」
「っ!?」
ドアの音がし現れた白衣姿の市原くんに壮哉くんは驚きます。
「お、まえ………あのバカ息子と一緒に野球やってる………」
「私の素性は内密に、そしてすべてここだけの話だと了承していただけるなら………博士、いかがでしょう」
「うむ…………」
市原くんの言葉にやがてスッと立ち上がり、神谷博士は壮哉くんに手を差し出し微笑みます。
「………………?」
「要件を聞こうじゃないか」
突然の変わりように少し驚きながら手を取り握手をし、壮哉くんは再び市原くんを見つめます。
「…………先ほどの条件、守っていただけるでしょうか」
「っ、あぁ、わかったよ」
今更ながらただならぬ雰囲気に、壮哉くんはやや怯みます。
「私は君のその傲慢な態度が非常に気に入った。あの二人を切り裂くナイフとしては実に有能な逸材だ。
まずは君自身のその生態、性格、性癖を事細かく教えてもらおうか」
「は?」
「どうせなら惚れた男を自分の好みに仕立て上げたくはないかね? もしくは、その男がちーちゃんから離れていくよう仕向けるのも可能」
「ま、マジで言ってんのか………?」
「そう! これこそまさにお互いうぃんうぃんの関係………我々はもう他人ではない。この世界の救世主としてあの二人を引き裂かねばならぬのだ」
「あ、あの………ホントに頼っても大丈夫なわけ? なんか無理だったら、」
ずいぶんイッちゃってる神谷博士の目に、さすがの壮哉くんも一、二歩下がります。
「今更何を戸惑うことがある? それを乗り越えた先のガンダーラを考えてみたまえ」
「………………………」
「♪ぜいせ~ぃわ~ずぃん い~んでぃあ♪ ※ゴダイゴ」
「音羽さん、博士がご機嫌なうちに応じた方が賢明かと」
「じゃ、じゃあ………頼むよ」
話はトントンと進みつつも、何か厄介ごとに巻き込まれたんじゃないかという不安が拭えないまま壮哉くんはうなずくのでした。
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