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第4話 2/5

【Seiji side】 「♪かわいい、かわいい千紘ちゃん、お料理上手の千紘ちゃん、今~日~はお鍋をいかがでしょ、お部屋じゃお掃除聖司くん、今夜~もまだまだ寝かせません♪ ※かわいい魚やさん」  …………よし、ホカペの準備完了。  ビールも冷やしてるし、日本酒もばっちし。  こないだ、千紘の店から出て見送ってもらってる時、冷たい風に思わずくしゃみをしたら、「今度は聖司さんちで鍋だね!」と微笑んでくれた。  しかもその約束の土曜翌日は、千紘の誕生日ときたもんだ。  そして当日、千紘の買い出しの間に俺は少し早めの大掃除をしながら待っている状態。  千紘の誕生日を二人で祝えるなんて、本当に幸せだなぁ………あの片想いを抱きながら毎日通ってた頃が信じられない。  鍋を囲む前から心も体もほこほこしだした時、部屋のドアが開かれた。 「聖司さん! お邪魔しまーす! ……あ、やっと部屋がきれいになったね!」 「んだよやっとって。まぁ、確かに散らかってたのは認めるけど」  いくつかの袋を下げて笑顔で入ってくる千紘に近付き、すっかり冷えてしまっている千紘の頬を両手で包む。 「んふふ、聖司さんあったかい❤」 「今日は片付けでずっと家にいたからな。ごめんな、買い出しも今日一緒に行けなかったし」 「いいよ大丈夫。お家で待っていてくれるのもうれしいし、聖司さんが喜んでくれるなら僕、なんだってできちゃうから!」  あぁ、ホントになんて天使な恋人なんだろう…………いかんいかん、ついだらしない顔になってしまいそうできゅっと顔と気持ちを引き締める。 「………にしても、二人分の鍋にしちゃ材料多くねぇか?」 「あ、こっちは違うの。今日は『試食デー』があってね」 「試食デー?」 「うん。商店街の飲食店でね、それぞれ新作を出して店頭で試食する日が何ヶ月かに一回あってね、気に入ったらその場で買ったりして………」 「あぁ。確かに前に一回、あれこれ勧められた日があったわ」  テーブルに並べられた数品のパックを見つめる。 「僕の好みになっちゃったけど待ってる間のおつまみになるかなと思って………お鍋がメインだからちょっとずつね、ピリ辛手羽先とおみ漬けってのとじゃこの炒めもの。あと食後のデザートに黒ゴマ団子、耳がついてて猫ちゃんみたいで可愛いでしょ?」 「お、ホントだ。あ、ケーキは約束通り明日に予約してるから」 「ありがとう!」 「あ……じゃ先にビール飲んでていいのか?」 「うんいいよ、じゃ早速準備するね」  そして俺が早々とプレゼントとして渡していた(俺好みの)エプロンを身に着け、早速キッチンに立つ。 「お、この漬物うめぇ。あの福神漬けのおばあちゃんか?」 「そう! もっと寒くなったら正月前に毎年買う白菜漬けが楽しみなんだー………ックシュン!」 「おいおい、もう白菜漬け解禁?」  くしゃみをしてプルっと体を震わせる千紘に、笑いながらついツッコむ。 「…………………………」  と、千紘は黙ったまま包丁をまな板の上に置く。 「? どうした千紘、」 「はぁー…………聖司さんとしゃべってるの、全然楽しくない」 「へ?」 「作るのも嫌だなー、待ってるだけの聖司さんとか超迷惑だし」 「ち、千紘!?」  背中を向けたまま突然暴言を吐き出す千紘に驚き、慌てて駆け寄る。 「どうした? 具合でも悪いのか?」 「悪いよ、めちゃくちゃ悪い」 「マジか!? じゃ、ちょっと休んだほうが、」 「うん、休ませてよ………それに、もっと心配してくれてもいいんじゃないの?」 「な………なんだよ、一体」  言いながらも千紘は口を押さえている。  この変化は………とピンとくる。 「………オマエ、試食であちこちなんか食ったんだろ? 何食ったんだ? わかるか?」 「何も食べてないし、知らないし」 「そんなこと言ったってオマエ、」 「聖司さんには関係ないでしょ」 「………………………………」  これ、は………なんかこないだの俺の時に似てる?  まさか、千紘も同じ薬で思ったことをそのまま言ってるとか?  たしかにいつも千紘に任せっぱなしだし、俺自身甘えてんのもわかってるし、いつも優しくてニコニコしてるからそれが日常だって思ってたけど。  現に俺が好きになったのだって、その温かい笑顔や優しさだったわけで。  …………なのに。今目の前にいる千紘はすっかり笑みが消え、冷えた目で俺を見ている。  あの時キレてわめきまくった俺にも穏やかに俺以上に心配して奮闘してくれたってのに。  あっと思い出してガムテープを持ち出すが。 「ち、千紘…………とりあえずこれを、」 「やめてよ。こっちこないで、頭悪いんじゃないの?」  あまりにもの変わりっぷりに大人げなくカッチーンと来てしまっていた。

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