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第4話 5/5

「千紘!」  バタバタと部屋のドアを開ける。 「聖司さん…………」  千紘は奥のソファにブランケットをかぶって待っていた。  そして、ベソベソと泣いている。 「千紘、これ食え! 一口ずつでもいいから全部食え!」  買ってきた商店街中の新作を目の前に広げる。 「……………………」 「出てく前にひどいこと言って悪かった! なっ! 頼むからこれを全部食ってくれ、お願いだから!」 「聖司さん、………もう、大丈夫、だから」 「へ?」  手の甲で涙を拭いながら、千紘は座り直す。 「大丈夫、って?」 「気が付いたら戻ってたの」 「じゃ、もしかして………ここにある何か食ったか?」 「え? あ………落ち着くために買ってきたのをちょっとずつ…………」  千紘が部屋に来た時に買ってきた、机の上のものを見つめる。 「…………ど、どれだったんだ? 結局どれがどうで………千紘、これ全部食った、」  振り向こうとした時、千紘に抱き着かれる。 「千紘?」 「聖司さん、ごめんなさい! ひどいこといっぱい言っちゃって、僕、」 「いいよそんなの、あのド腐れ変態野郎のせいだろ? 俺の方こそ、」 「何度も何度も帰ろうと思った、けど………やっぱりちゃんと謝らなきゃと思って………あれ、本当に本音じゃないから、僕は聖司さんが大好きで、」 「わかってるよ、もう大丈夫だから。俺の方こそ、本当にごめん………ごめんな?」  今度は俺の方が強く千紘を抱きしめる。 「ねぇ聖司さん。結局なんだったの? 急に元に戻れたけど………」 「アイツが商店街で売ってるどれかに薬を入れやがったんだよ。しかも解毒剤もその中に混ぜやがって」  あれ? でも………… 「他の人だって買ってるわけだよな? 街中廻ったけど何の混乱も起こってなかったし、なんで千紘だけ…………」 「聖司さん、そのためにこれ全部買ってきてくれたの?」 「えっ? あ、うん…………これしか方法なかったし。それに、………前に俺がこんな状態になった時、本当に辛かったから。とにかくどうにかしなきゃって必死で………」 「…………ありがとうっ」  そう言ってまたぼろぼろと涙を落とす。 「ななっ、泣くなよっっ! オマエに泣かれるのが一番コタえるんだからっっ」 「う、ん………ごめ、ん……」 「ま、まぁでも………そんな千紘も………か、可愛い、けど」 「もうっ! 可愛いは言っちゃヤダって言ってるでしょおっ」 「あの野郎に言われた時は喜んでたくせに」 「だからあれは本心じゃないって言ってるでしょっ、もおっ!」 「ごめんごめん、ちょっとからかってみただけだよ」  よかった。何はともあれ、元の千紘に戻ってくれたようだ。 「はぁ、これでなんとか明日の誕生日はのんびり過ごせそうだな」 「うん。あ、お鍋は明日にしようっか? 今日は聖司さんが買ってきてくれたこれ食べて」 「は!? 何言ってんだよオマエ、この中に薬が混ざってるかもしれないんだぞ!? 解毒剤もあるかもしれないけど、」 「だって商店街のみんなが一生懸命作ったものだよ?」 「………た、たしかにそのまま捨てるのは後味悪いよな………クソ、あの野郎それも目的か」 「せっかくだからロシアンルーレットみたいにして遊ぼうよ!」 「はぁ? オマエ、だからってそんな楽観的に言うなよ」 「だってどれが危ないかわかるし、いっこ食べるたびに、好き? って確認し合うの楽しいじゃん!」 「ぅ……………」  ……………あぁ、もう。 「ちくしょー! やっぱりお前は可愛いなぁぁぁあっっ!!」 「やっ、やめてよ! 可愛いっていう聖司さんは嫌いっっ!!」 ◆◆◆ 【Kamiya side】 「………ふふふ。今頃必死になって街中の食品を食べてるのかねぇ」  鍋をつつきながら、神谷博士はいつものように不敵な笑みを浮かべます。 「薬が混ざってたのは壮哉さんが試食の時に渡した一本の団子だけ。あとはある程度の時間が経てば何を食べても元に戻る仕掛けですね」 「結局そのあと何を食べたって何も起こらず迷宮入り」 「そしてこれからは商店街中のすべてが敵かもしれないと不信感が煽られるわけですね。さすが博士、素晴らしい」 「あ、あのさ…………」  怪しい会話をする神谷博士と市原くんに、壮哉くんは問いかけます。 「そんなややこしいことしなくても、さっさと惚れ薬作った方が早くね?」 「何を言う。まずは私のちーちゃんを凌辱したあの男への復讐だ。  あの男は思ってる以上に単純で短気な男。すでに破滅へのカウントダウンは始まっているのだよ」 「いや、成田さんを壊されたら俺が困るんだけど…………」 「安心しなさい、すべてが終われば君好みに仕立てられるようにもしてあげるから。もちろん、すべてリセットした上でね」 「はぁ………」 「ふふふ。そんな顔をする必要はない、………そうそう、毒を食らわば皿まで、って言葉もあったねぇ」 「………………………」 「壮哉さん、最初のお約束をお忘れなく」 「っ、………………」 「さぁ、新たな世界が開かれるプレリュードだ、今改めて乾杯しようじゃないか!」 「博士、ご成功をお祈りいたしております(棒読み)」 「…………………………」  やっぱりとんでもないことに巻き込まれたと思わずにいられない壮哉くんなのでした………。

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