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第5話 1/4
【Chihiro side】
ガサガサと買い物袋を提げて、聖司さんと二人で歩く。
「聖司さん、昨日も今日もビール飲まなかったね」
「あー、ちょっと飲み過ぎなのか胃がもたれやすくなっちゃって」
「そうかなと思ってね、明日の朝は中華がゆを作ろうかなと思って」
「お、いいね。悪いな、ありがとう」
土曜日はお店を閉めてからすぐに二人で聖司さんの家に行って、お泊りするのが決まり。
お店の手伝いも、お弁当作るのも、野球するのも大好きだけど、やっぱり聖司さんと二人で過ごす日曜日が僕にとっては一番で特別。
「あとデザートはこれね」
僕はもう一つの袋の中を見せる。
「? ………やけにちっちゃいリンゴだな」
「姫りんごっていうの。りんご飴とかに使うやつ」
「あぁ、あれか。じゃ、りんご飴作るのか?」
「うん、そう」
「そっか、………………」
「?」
聖司さんは少し考え込むような顔をして、黙り込む。
「どうしたの聖司さん、りんご飴嫌いだった?」
「いや、そういうんじゃないけど、こないだの件がある、から………」
この間、神谷博士が困った薬を商店街中に入れたっぽいのをずっと気にしているみたいで。
「だって、あれから全部食べたけどなんともなかったでしょ?
それに、ごはんは全部いちから材料買って作るんだからいつもなんともないし」
「そ、そうだよな?」
「りんご飴もそうだよ、姫りんごとお砂糖と、食紅、あとは水があれば作れるんだもん」
「そのりんごの出所はわかってるの?」
「いっちーの実家から届いたやつだよ。ここに住んでない、遠い所に住んでる。
いっぱい届いたから、母さんが分けて近所にもおすそ分けしたし」
「そっか。………ごめん、変に神経質になっちまって」
「ううん、いいよ」
神谷博士が何を考えてるのかわからないけど、いろんなことをいっぱい考えちゃう聖司さんはとっても困ってるようで。
「大丈夫だよ聖司さん、僕は平気だもん」
「そりゃそうだけど。………ホント、オマエには色々救われてるよ」
「ううんっ、ぼ、僕の方も聖司さんといるの、すっごく幸せだし!」
「千紘………」
そういって、僕にやさしい笑顔を向けてくれる。
「あ、よかったら食べてみる?」
ちょっと恥ずかしくなって、僕は姫りんごを一個差し出す。
「ん。………っ、う、オマエっ、これっっ」
「んふふ、姫りんごは調理前はすっぱくてちょっと渋いんだよ」
「オマエだましたなっ、オマエもこれ食えよっっ!」
聖司さんが差し出したのを、そのまま食べる。
それを見て、聖司さんはちょっとだけ顔を赤くする。
「ど、どうだよ?」
「うん、やっぱりすっぱいね。でもりんご飴にしたらおいしいから!」
「ったく………今夜はお仕置きだからな?」
「なにそれ。聖司さんのえっち!」
「や。お仕置きって言っただけでエッチとは関係ないと思うけど?」
「うそつきっ! いっぱい意地悪なこというくせに!」
今度は僕が赤くなる番で。
「もうっ、早く聖司さんちに行こうよっ!」
「あぁ、お仕置きが待ち遠しんだ?」
「聖司さんのバカ!」
「おいコラさっさと歩くなよっっ!!」
後ろから焦った聖司さんの声がする。
二人で歩くのも、しあわせ。
でも夜のことはホントは待ち遠しいなんて、絶対聖司さんには言わないんだからね!
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