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第5話 4/4

「博士、やけにあっさりと帰してしまわれましたがよかったのですか?  渡した解毒剤も軽い睡眠薬とただの砂糖水、前回同様、時間が経てば元に戻るというのに」  静かになった研究所にて、市原くんは神谷博士に問いかけます。 「ふふ。何も薬だけがあの二人を引き裂くものではない。  これは一つの心理操作………私の戦いの駒が薬だけではない、ということをあの男に知らしめてやろうと思ってね」 「…………………………」 「やはりちーちゃんを天国へ誘い、あの男を地獄へ堕とすことができるのは私しかいない、ということだ」 ◆◆◆ 【Chihiro side】 「聖司さん! お薬もらってきたよ!」  僕は慌てて聖司さんの部屋に戻り、ぐったりしている聖司さんの体を抱き起す。 「う………体、体が…………」 「大丈夫、これ飲んで少し眠ったら戻れるから!」  聖司さんの口の中を無理やり開けて薬を流し込み、僕も一緒に薬を飲む。 「ち、千紘…………おまえ、」 「もう大丈夫、大丈夫だよ、聖司さん…………」  僕もベッドに入り、聖司さんを抱きしめるようにして二人で眠った。  ───外が暗くなり始めた頃。 「…………戻ってる。…………聖司さん、戻ってるよ!!」 「ん? ………あ…………」  聖司さんの方も起き上がり、ぼんやりとした目で僕を見る。 「あれ? 朝のは…………夢?」 「夢じゃないよ! ちゃんと元に戻れたんだよ!」 「………………」  よかった。これで僕も聖司さんを助けることができた。  けれど、聖司さんはあまり嬉しくなさそうで。 「どうしたの、聖司さん」 「オマエ、あの男のところに一人で行ったのか?」 「うん。なんかね、お願いしたらちゃんと、」 「何かされただろ? ちゃんと教えてみろ!」  と、ガッと聖司さんに肩を掴まれる。 「っえ? ………ううん、大丈夫だよ、だってこれは他の科学者の薬のせいで、博士が解毒剤をちゃんと作ってくれて、」 「はぁ!?」 「僕のことは身を引いてるとか、そういうことも言ってたし、」 「そんなウソ今更なんで信じてんだよ! オマエ………本当に、何にもなかったのか?」 「え?」  掴まれた肩が痛いくらいで、聖司さんはずっと怖い顔をしている。 「な、んで………ホントだよ、なんにもなかったよ」 「オマエ、今までのこと全部忘れてるのかよ? ウサギの耳にさせられたのも! 俺もオマエも言葉を勝手に変えられて苦労したことも!」 「聖司さ、」 「あいつがオマエを狙ってるのは明白なんだぞ! オマエが一人であの研究所に行って無事に帰ってこられたなんて信じられるわけないだろ!」 「なんで、なんでそんなこと言うの?」  どうして?  神谷博士はちゃんと解毒剤を作って渡してくれただけなのに。 「聖司さん、ホントだよ。僕、嘘なんてついてな」 「じゃ洗脳されるような薬でも飲まされたのか? この解毒剤だってきっと、」 「ひどいよ聖司さん! なんで僕のこと信じてくれないの?」 「だったら俺はオマエを信じられなくなる薬でも混ぜられたのかもな!」 「っ、聖司さんのバカッ!」  思わず聖司さんをドンと突き飛ばす。 「博士なんて関係ないよ! 僕は何があっても聖司さんと一緒にいられるだけでいいのに!」  聖司さんはハッとした顔をする。 「ち、ひろ………いや、俺は、」 「僕より博士のことばっかり気にする聖司さんなんか大嫌い!  聖司さんのバカ! もう知らない!」  呆然とした聖司さんを置いて、僕は部屋を飛び出してしまった。

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