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第6話 1/5
【Seiji side】
くそっ………まんまと神谷の策にはまってしまった。
あの日、本当に千紘の身には何もなかったのだ。
疑心暗鬼になってる俺の取るだろう行動を読んで、わざと仲違いをさせやがって………。
神谷も憎いが、千紘の言葉を信じなかった自分も許せない。
早く仲直りしなければ………とは思いつつも、どうやって謝ればいいんだろう。
開店前の、千紘がいるだろう定食屋へ向かうも、足取りが重い。
まだ怒ってるかもしれないし、いやいや、千紘のことだから逆に一人で悲しんでるかもしれない。
これチャンスとばかりに神谷がまた何か仕掛けるのを考えるのも恐ろしい。
はぁ、まったく情けないなぁ………千紘が好きであることに変わりないのに。
「あれー? もしかして成田さん?」
「えっ?」
ポンといきなり肩を叩かれ振り返ると、子供のようにニコニコと笑ってる男が立っていて。
「あ………えっと、」
「市原です。前に野球してたところで会った………」
「あーはいはい、覚えてます」
確か千紘と一番仲良かったやつだよな………というか、カミングアウトしてる友人で………。
「今日はお買い物ですか?」
「いや、ちょっとふたば亭の方に」
「えっ? あそこまだ開いてないですよね?」
人懐こさにつられ、自然と肩を並べて歩く。
「いえ、あの、千紘に用がある、というか」
「あぁ。仲いいんですねー」
「いやいや、市原さんと比べれば…………」
「いえいえ。僕と千紘とは別に付き合ってるわけじゃ、っ、」
そこまで言って、市原はアッとして口を押さえる。
「付き合ってる?」
「いや、えぇっと、なんでもないです」
「………い、市原さんって千紘がゲイ、ってこと知ってるんですよね?」
「あれ? 成田さんも知ってました? じゃあよかった」
「あの、こないだ言いそびれたんですけど、実は、」
「まさかその千紘とお付き合いをしてる、とか?」
「え!? いやその、まぁ、はい………」
「なぁんだー、千紘も言ってくれればいいのに水臭いなー。
………で、その千紘に会いに行くのになんか浮かない顔してますね」
「えっ? あ、そっすか?」
市原の言葉に、ますます焦ってしまう。
「なんか悪いね、興味本位で不躾なこと聞いちゃってたら」
「いえいえっ、………そ、そういえば市原さんって何やってらっしゃるんですか?」
「俺? 隣町の工場で働いてますよ」
「そうですか。…………あの、じゃ神谷博士ってご存知ですか?」
「神谷博士? あぁ、神谷薬局の店長で有名な科学者とかいう」
「あの人ってどんな人なんでしょうね、なんか不思議というか」
「確かに素性を明かさないというか変わった感じの人だよねー………俺も二、三回しか顔合わせたことないけど」
「やっぱり、そんな感じですか………」
「? その神谷さんがどうかしたんですか?」
「っ、いやっ、近所に有名人が住んでるってなんか珍しいなーと思って」
もともとここに住んでるだろう人に聞こうにも、なんて言っていいかわからないし、言ったところで信じてもらえるわけないだろうし。
「あ、成田さん。成田さんもここ寄っていきません?」
「へ?」
と、市原が一軒の和菓子屋を指さす。
「音羽堂本舗………」
「俺、ちょうどここに来るつもりで歩いてたんすよ。
成田さんもどうです? 千紘にお土産がてら」
「あぁ、そうです、ね…………」
どうせなら千紘の家族へお礼も兼ねて何か持っていくのもいいかもしれない。
「ここの三代目の息子も結構有名なんですよー」
「へぇ、看板息子的な?」
「まぁ、そんなようなもんです」
市原に促され、そのまま俺も店に立ち寄ることにした。
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