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第6話 5/5
「テメェ神谷何してやがる! 千紘から離れろ!!」
はっと目が覚めたように、気付いたら千紘の腕を掴んでいた。
「やっ………痛、い」
「目を覚ませ千紘! そいつは神谷だぞ! ド変態の神谷だぞ!」
「きっ、貴様っ、なんで記憶が戻っ」
「うるせぇド腐れ野郎! 記憶が戻っただと!? 俺らはオマエのオモチャでもモルモットでもねんだよふざけんな!」
「まっ、まさかこの私の薬の免疫でも付いたのか?」
「ちげぇよ、千紘の言葉で目が覚めたんだよ! 次から次へ懲りもせずいい加減にしろ!」
「くっ、このうじ虫め、本当に忌々しい」
神谷が白いタキシード姿でダンダン、と片足で地面を踏みしめる。
「な、なに………聖司さん、怖い………」
そして怒鳴る俺に、千紘は怯えた顔を見せる。
「ほらちーちゃん、そんな男なんかやめて私のところへおいで?」
「博士、助けてくださ、」
「落ち着け千紘! よく見てみろあいつの間抜けな格好を! あんな男でいいのか? ちゃんと考えろ!」
「でも、」
「俺が悪かったから! おまえを信じてやれなかったことも、記憶失くしてきっとひどいことしたことも! 全部謝るから!」
「聖司さん…………」
「あぁもうっ違うっ、とにかくそれは後回しだっっ!」
このままだと千紘は怖がってるままで逆効果だ。
俺は千紘を抱きしめる。
「えっ、なに、」
「………千紘、俺はおまえが好きだ。一目惚れだったんだ。
ずっとずっと告白できなくてどれだけ苦しかったか。
そして両想いになってどれだけ嬉しかったか…………」
「………………………」
とても恥ずかしいけれど。きちんと伝えなきゃいけない。
思うままに口から吐き出された、あの時の言葉なんかじゃなく。
今の自分の、ありったけの想いを。
自分の口から、自分の言葉で。
俺は千紘の目をじっと見つめる。
「好きだ、千紘。…………おまえを、愛してる」
「……………聖司さんっ!」
再び泣き出して、千紘が俺にしがみつく。
「僕も………聖司さんが好き。この間はごめんなさい!」
「もういいんだよ、俺の方が悪かったんだから」
「聖司さん…………」
「千紘…………」
「フンギィィィィィィィーーーーーーーー!!」
抱きしめ合う俺らの前で、神谷が奇声を発する。
「見たか神谷! おまえの薬なんか俺たちには無意味なんだよ!
これが愛の奇跡だ、ざまーみろ!」
「ゆゆゆ許さんぞ貴様! 今度は社会から抹消させてやる!」
「どんだけ錯乱してんだテメェは! それはこっちのセリフだよ!」
と、チカ、チカと回る赤い灯が目に入る。
ヤバイ、あんまり騒いでたから誰かが通報したのかもしれない。
「千紘、部屋に戻ろう、あの男だけ置いてさっさと戻ろう!
神谷、オマエはそのカッコで職質でも受けるがいいさ、バーカ!」
「くそぅ。ちーちゃんは絶対に渡さないからな!」
特撮ヒーローの悪役みたいなセリフを吐いて神谷は逃げて行き、警察の人にはただの痴話げんかだった、と説明しなんとかお帰り願う。
「聖司さん………」
やっと静まり返ったところで、千紘は改めて俺の目を見つめる。
涙で濡れているまつげがキラキラと輝いていて。
あぁ、こんな愛しい人をどうして泣かせてばっかりいるんだろうと深く反省する。
そのほとんどがあの野郎のせいだとしても、これからはもっと、きちんと考えて守っていかなきゃいけない、と強く思う。
俺はその瞼にキスをして、もう一度抱きしめる。
「千紘、ちゃんと約束する。おまえを信じるから。
何があっても絶対に、もう、泣かさないから」
「聖司さん………僕も、これからも、ずっと………」
抱きしめる腕が一瞬強くなる。
「……………………ぅ」
そして、小さなうめき声を上げ。
「? 千紘、どうした?」
「…………………………………」
そのまま、千紘はずるりと滑るように倒れこんでしまった。
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