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最終話 1/4

「千紘、しっかりしろ、千紘!」  慌てて抱き上げると、千紘は真っ青な顔になっている。 「千紘、千紘!」 「聖司さんっ………なんか胸が……苦し、」 「わかった、もうしゃべらなくていいから………」  千紘のご両親に声をかけると、ここらの病院は閉まってるからということで、隣町の夜間診療所へタクシーに乗って向かう。 「聖司さん………聖司さん」 「大丈夫、大丈夫だから………」  と、手を握り口では言うものの、本当に大丈夫なのだろうか。  現段階じゃどう考えたって神谷のせいにしか思えない。  あんだけ様々な薬をぶち込まれてるんだ、何もないわけがない………いろんなゴタゴタでそんなところにまで頭が回らなかった。  しかも今さら病院に行ったところで正しい治療をしてもらえるのかもわからない。 「………………うぐっ」  って思ってるうちに俺も頭がガンガン痛くなってくる。 「やべっ………なんだこれ………いだだだだ………」 「聖司さんっ………どうしたの?」 「いや、大丈夫」  ちくしょう、もし千紘に何かあったら神谷の野郎をぶっ殺してやる…………。 ◆◆◆  ふ、と気が付けばカーテンに囲まれた中で、千紘と並んでベッドに寝かされていた。  隣の千紘は今度は顔を真っ赤にしてうなされているし、俺も俺で手や足が今度は痺れだしてるし。 「ちひ、」  声をかけようとしたところで、静かに背後のカーテンが開かれる。 「気分はいかがですか?」 「あ、あの、…………っ、!」  後ろを向いて顔を見て、アッとなる。 「お、まえ…………確か、」  確か千紘の友達で野球仲間だった男が白衣を着て立っていて。  あれ? ザザッとノイズみたいに別の記憶も浮かび上がる。 「いっちー、つか市原オマエ………隣町の工場で働いてるつってたじゃねぇかよ」 「いろいろ面倒なんで。便宜上、いつもそう言ってるんです」 「じゃ、じゃあここで医者やってるのか?」 「それ以外の何に見えます?」  あの人懐こさとはまるで逆に、市原は冷静に答える。 「そ、それはわかったけどよ、これって一体何なんだよ、俺もアレだけど、千紘がこんなに苦しむなんて…………」 「現段階では原因不明、としか」 「えっ? じゃ、じゃあっ」  信じてもらえないかもしれないけど、言うしかない。 「俺ら、あの神谷博士とかいうやつに何度かおかしな薬を投入され続けててっ、」 「はい、存じ上げてますよ」 「は!?」 「さすがにあれは行きすぎだ、と思ったのですが、博士はもうムキになっちゃってて」 「おまえっ、じゃ結託して千紘や俺に近づいてたのかよ、ふざけ、いだだ………!」  怒鳴ろうにも頭が痛くてそのまま崩れ落ちてしまう。 「あ、あの野郎はどうしてんだよ、これを知ってんのか?」 「ええ。今こちらに向かってます」 「ちくしょう………どの面下げてきやがるんだあいつっ………」 「とりあえず採血だけはしときましたんで………簡単な検査の結果だと聖司さんは少々、中性脂肪が高めかと」 「そっ、そんなことは今関係ねぇだろっ、いだだだっ」  こんな淡々とした男だったのかよ………なんか怖ぇな。 「うぅっ………こ、これマジで治るのかよ」 「鎮痛剤をお渡ししたいところですが、事情が事情なので」 「俺のことはいいよ! 問題は千紘の方でっ」  千紘は未だに意識朦朧としてうなされている状態で。 「なんだよ、…………結局、俺は何もできねぇのかよ…………」  自分の無力さに涙が出そうになるのを堪えることしかできなかった。

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