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第一章・6
「コーヒーと紅茶を同時に出すとは、おもしろい子だ」
芳樹の声に、智貴は顔を上げた。
「私もコーヒーでよかったのに」
その笑顔に、青葉はようやくホッとした。
「智貴さまは紅茶党ですので。お客様には失礼いたしました」
ぺこりと頭を下げる青葉に、別に構わないよと声掛けをした後に、芳樹はくつろいだまま智貴に目をやった。
「安藤さん、欲しいものが決まりましたよ」
「何でしょう。若冲ですか? 北斎ですか? それとも古伊万里?」
相変わらずの、智貴の笑顔。
だが、次の瞬間その笑顔が凍り付いた。
「この少年。彼が欲しい」
智貴は、絶句した。
まさか芳樹が、こんなことを言い出す人間だったとは!
「いえ、その。青葉は、いえ、加古は美術品ではなく使用人ですので」
「美術品と言っても遜色ほど、美しいですが?」
確かに青葉はΩの男性が持つ、中性的な魅力に溢れていた。
つややかな髪、白い肌、すらりとした手足に、しなやかな体。
もちろん顔の造作も、申し分ない。
男くさく無く、かといって女々しくもなく。
そんな青葉を、芳樹はにやにやと眺めている。
その姿に、智貴は少し憤った声音で反論した。
「加古は使用人と言えども、人間です。それを、品物扱いなど」
しかし智貴の意見など、芳樹は聞いてはいなかった。
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