7 / 169

第一章・7

「使用人は、主人の。支配人のために存在するもの。青葉くんは、新しい主人の手に渡るだけですよ」  解らないかなぁ、と芳樹はコーヒーカップに口を付けた。  さりげなく、青葉のことを氏ではなく名で呼んでいる点が、智貴の神経を逆立てた。 「他のものなら、何でも喜んで差し上げましょう。しかし、加古だけは……」 「イヤ、とは言わせませんよ。もし彼がいただけないのでしたら、今回の件は白紙に戻しましょう」  ぐぅ、と智貴は喉を詰まらせた。  こぶしを握って、身を震わせた。 (智貴さま)  青葉は、不安だった。  しかしその一方で、確信も持っていた。 (智貴さまが、僕を手放すはずがない)  そう。今日は特別な日。  僕の18歳の誕生日なんだから。  だが次の瞬間、その確信はもろくも崩れ去った。 「解りました。加古を、七浦さんにお譲りしましょう」 「賢明な判断だ。私の、あなたを見る目に狂いはなかった」  青葉の目の前は、ぐるぐると回り始めた。 「そうと決まれば、長居は無用だ。さ、青葉くん。来るんだ」  七浦は青葉の腕を掴み、ふらつくその体を引きずるようにしてドアへ向かった。 「智貴さま」  一言、そう小さく叫ぶだけが精いっぱいの青葉を、まるで人さらいのように連れて行った。  智貴はその声を聞きながらも、こうべを垂れたまま動かなかった。

ともだちにシェアしよう!