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第一章・7
「使用人は、主人の。支配人のために存在するもの。青葉くんは、新しい主人の手に渡るだけですよ」
解らないかなぁ、と芳樹はコーヒーカップに口を付けた。
さりげなく、青葉のことを氏ではなく名で呼んでいる点が、智貴の神経を逆立てた。
「他のものなら、何でも喜んで差し上げましょう。しかし、加古だけは……」
「イヤ、とは言わせませんよ。もし彼がいただけないのでしたら、今回の件は白紙に戻しましょう」
ぐぅ、と智貴は喉を詰まらせた。
こぶしを握って、身を震わせた。
(智貴さま)
青葉は、不安だった。
しかしその一方で、確信も持っていた。
(智貴さまが、僕を手放すはずがない)
そう。今日は特別な日。
僕の18歳の誕生日なんだから。
だが次の瞬間、その確信はもろくも崩れ去った。
「解りました。加古を、七浦さんにお譲りしましょう」
「賢明な判断だ。私の、あなたを見る目に狂いはなかった」
青葉の目の前は、ぐるぐると回り始めた。
「そうと決まれば、長居は無用だ。さ、青葉くん。来るんだ」
七浦は青葉の腕を掴み、ふらつくその体を引きずるようにしてドアへ向かった。
「智貴さま」
一言、そう小さく叫ぶだけが精いっぱいの青葉を、まるで人さらいのように連れて行った。
智貴はその声を聞きながらも、こうべを垂れたまま動かなかった。
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