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第二章 ハッピーバースディ

 有無を言わせず青葉をマスタングの助手席に押し込んだ芳樹は、運転しながら彼の悲痛な訴えを聞いていた。 「着の身着のままだなんて。僕の身の回りのものを取りに、お屋敷へ戻らせてください!」 「すぐに私の部下を寄こすよ。荷物は彼らに運んでもらう」 「せめて、智貴さまにお別れを言わせてください!」 「最後の安藤さんの姿、見たろ? 彼を苦しめるだけだ、やめておけ」  じゃあどうして、と青葉は叫んだ。 「どうして智貴さまを苦しめるようなことをするんですか! なぜ僕を、智貴さまから引きはがすんですか!?」 「お茶を運んでくれた君は、もうすこし理知的に見えたがね。今は完全に自分を見失っているな」  落ち着け、と芳樹はステンレスボトルを青葉に渡した。  飲んでみると、アイスコーヒーだ。  しかも忌々しいことに、美味しい。 (僕が淹れるコーヒーより、美味しい……)  青葉の心を読んだかのように、芳樹は言った。 「美味いだろう? 私が淹れたんだ。こう見えて、コーヒーにはうるさくてね」

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