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第二章・2
芳樹が自分でコーヒーを淹れた、という点に、青葉は興味を惹かれた。
「どうしてご自分で? 身の回りのお世話をする人間はいないのですか?」
「自分でできることは、自分でやるさ。その方が手っ取り早い。好み云々もあるしね」
そこで青葉の頭には、疑問が湧いた。
「では、どうして僕を? 僕を欲しいとおっしゃったのですか?」
青葉は、芳樹の家事使用人になるために譲渡されたと思っていたからだ。
「それに関しては、後で話そう。もうマンションに着いたからね」
「はい……」
どうせ碌でもない理由からだろう、と青葉は思っていた。
自分を『美術品』と称した芳樹のことだ。
愛玩するために手に入れ、そして……。
(ヤだ。今日は僕の18歳の誕生日なんだ!)
助手席のドアが開いたとたん、青葉は無我夢中で駆けだした。
「おい、どこへ行く!」
「帰ります、安藤のお屋敷へ!」
バカを言うな、と追いすがって来る芳樹は、たちまち青葉を取り押さえてしまった。
恐ろしい脚力だ。
「放してください! 今日は僕の誕生日なんです!」
「そりゃ、おめでとう! だが、逃げ出すのと何の関係が!?」
う、と青葉は口をつぐんだ。
智貴さまに、初めて同衾を許していただけることになっていた、なんて言えない。
(言えばこの人はきっと、智貴さまをあざけるに決まってる)
大人しくなってしまった青葉の背を押して、芳樹はマンションへと入っていった。
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