9 / 169

第二章・2

 芳樹が自分でコーヒーを淹れた、という点に、青葉は興味を惹かれた。 「どうしてご自分で? 身の回りのお世話をする人間はいないのですか?」 「自分でできることは、自分でやるさ。その方が手っ取り早い。好み云々もあるしね」  そこで青葉の頭には、疑問が湧いた。 「では、どうして僕を? 僕を欲しいとおっしゃったのですか?」  青葉は、芳樹の家事使用人になるために譲渡されたと思っていたからだ。 「それに関しては、後で話そう。もうマンションに着いたからね」 「はい……」  どうせ碌でもない理由からだろう、と青葉は思っていた。  自分を『美術品』と称した芳樹のことだ。  愛玩するために手に入れ、そして……。 (ヤだ。今日は僕の18歳の誕生日なんだ!)  助手席のドアが開いたとたん、青葉は無我夢中で駆けだした。 「おい、どこへ行く!」 「帰ります、安藤のお屋敷へ!」  バカを言うな、と追いすがって来る芳樹は、たちまち青葉を取り押さえてしまった。  恐ろしい脚力だ。 「放してください! 今日は僕の誕生日なんです!」 「そりゃ、おめでとう! だが、逃げ出すのと何の関係が!?」  う、と青葉は口をつぐんだ。  智貴さまに、初めて同衾を許していただけることになっていた、なんて言えない。 (言えばこの人はきっと、智貴さまをあざけるに決まってる)  大人しくなってしまった青葉の背を押して、芳樹はマンションへと入っていった。

ともだちにシェアしよう!