11 / 169

第二章・4

 やたらと広いリビングの、やたらと大きなソファに掛けて、芳樹は電話の最中だった。 「だから、それは今度。いいですね、近いうちにハッキリさせますから」  何か揉めているようだったが、青葉がリビングへ現れると通話を切った。 「ああ、引っ越しは済んだか?」 「はい」 「何か飲み物を淹れよう。コーヒーは嫌いか?」 「僕がやります」  それには、首を横に振る芳樹だ。 「まだキッチンの勝手も知らないだろう。自分でやった方が、早い」 「では、紅茶をお願いします」  精一杯の青葉の反抗だったが、芳樹はそれを明るく笑った。 「いいね、それ。従順なイヌより、我儘なネコの方が私は好きだ」  茶葉を用意しながら、芳樹はご機嫌そうだった。 「僕は、イヌでもネコでもありません。人間です!」 「その割には、安藤さんに大人しく飼われてたみたいだったが?」 「智貴さまを悪く言うのは、やめてください」 「智貴さま、か。私のことは『芳樹さま』なんて呼ばないでくれよ」 「では、何とお呼びすれば」 「芳樹さん、でいいよ」  そんな無礼な、と青葉は震えた。  いきさつはどうあれ、この方は僕の新しいご主人様なんだ。  それを、芳樹さん、だなんて!

ともだちにシェアしよう!