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第二章・5

「私は君を何と呼べばいいんだろうね。加古さん? 青葉さん?」 「あ、青葉で結構です」  そう、と言葉を切って、芳樹はティーカップを青葉の前に置いた。  いい香りだ。 「冷めないうちに、飲んで」 「はい」 (この香りと味わい。ファーストフラッシュのダージリンだ) 「その顔つきだと、解ったようだな」 「え、あ、はい」  長い脚を組み、芳樹も紅茶に付き合った。 「君を欲しいと思ったのは、ただの綺麗なΩだからじゃない。私に、新しい何かをもたらしてくれる、と感じたからだ」 「新しい、何か?」 「コーヒーと紅茶を同時に淹れて、全く新しい香りの空間を創り出していたね。ああいった、枠にとらわれないものを、君は持ってる」    それは考え過ぎです、と青葉は力なくつぶやいた。 「僕はただ、智貴さまは紅茶がお好きだから。だから……」 「偶然とでも? それにしても、鋭い直感だ。やはり賞賛に値するよ」  芳樹は青葉を褒めちぎったが、彼のしおれた様子は変わらない。  うつむき、紅茶をすすっている。  安藤邸での彼を10とすれば、1まで気分が落ち込んでいる。 「そう言えば、今日は青葉の誕生日だったな」 「はい」  そうと決まれば、と芳樹は携帯を手にした。 「もしもし、バード・レンタルさん? 七浦です。いえいえ、こちらこそお世話になって」  そんな社交辞令から始まり、芳樹は何やら話していた。  しかしそれは、青葉の耳には入らない。 (僕の誕生日。18歳の、誕生日)  いけない。  涙がにじんでくる。  熱い紅茶を飲んでも、冷えた心は温まることはなかった。

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