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第四章・4

 実は、と芳樹は少し表情を変えた。  初めて見る、困ったような顔だ。 「私の両親が、やたら縁談を勧めてきてね」  これまでに、両手両足の指では足りないくらいの女性とお見合いをしてきた芳樹。  だが彼は、誰とも結婚したいと思わなかった。  いや、結婚そのものを疎ましく思っていた。 「もうこれ以上お見合いするのも、両親をがっかりさせるのも嫌なんだ。だから青葉、私と結婚する、ということにして欲しい」 「偽装結婚、ですか」 「やはり利発だね、君は」  近いうちに、青葉を実家に連れて行き、両親に会わせる、と芳樹は言う。 「明日は二人で出かけよう。君のスーツを作らなきゃ」 「僕に、務まるでしょうか」 「安藤家でしっかり礼儀作法を身につけてる君なら、私も安心だよ」  ふぅ、と青葉は宙に向けて息を吐いた。  一日の内に、多くのことがあり過ぎる。  智貴さまと別れ、友達と誕生パーティーをし、芳樹さんを相手に初めてセックスをし……。  今度は偽装結婚、と来た。  そう思うと、何だか眠たくなってきた。 「芳樹さん、僕、休んでもいいですか?」 「ああ、疲れたろ。ゆっくりお休み」 「おやすみなさい、芳樹さん」 「おやすみ」  青葉がぐっすり眠ってしまった後、芳樹は彼の体をきれいに拭いてあげた。  そして、もう一杯だけ酒を飲んでから、眠った。

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