27 / 169
第四章・5
翌日、芳樹と青葉の二人は繁華街へ繰り出した。
安藤邸が世界の全てだった青葉にとって、外の空気は新鮮だ。
きょろきょろと周りを見回したり、立ち止まって、珍しい看板を眺めたり。
その度に迷子になりそうなので、芳樹は青葉の手を握った。
「離れないように、ね」
「すみません」
握られた芳樹の手。
大きく、固く、温かだった。
(そう言えば、智貴さまは手をつないではくださらなかったな)
やがて青葉は、オーダースーツ専門店へと連れて行かれた。
老舗の雰囲気をまとうその店に入ると、愛層のいいテーラーが出迎えた。
「これは七浦さま。今回は、どのようなお仕立てを? イタリアのいい生地が入っておりますが」
「今日は私ではなく、この子に作ってもらうよ」
「お若いですね。でしたら、お色はネイビーになさいますか?」
「彼に決めてもらうよ。細かいところは、私が指示しよう」
「いつものように、フルオーダーで?」
「あまり時間が無い。イージーオーダーで頼む」
「かしこまりました」
生地を選び、採寸をし、型紙を選び……。
全て終わった時には、青葉はクタクタになっていた。
「楽しかったろ?」
「疲れました……」
では、お茶でも飲んで疲れを取ろう、と芳樹は青葉を連れて喫茶店に入った。
ともだちにシェアしよう!