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第五章 両親

 約二週間後、仕立て上がったスーツを身につけ、青葉は芳樹の前に立った。 「いい! いいよ、青葉! カッコいい!」 「ありがとうございます」  清潔なシャツ、品の良いネクタイ、高級感のあるカフス、ぴかぴかの革靴も手伝って、青葉はどこに出しても恥ずかしくない紳士に見える。 「さ、じゃあ行こうか」 「どこへですか?」 「私の実家だよ。さっそく両親にお披露目する」  どきり、と心臓が打った。  二週間、芳樹と共に過ごしてみて解ったことは、彼は日本でも有数の名家出身であることだ。  旧華族七浦家の御曹司にして、ナナウラホールディングスの社長。  それが、七浦 芳樹だった。 (そんな芳樹さんの御両親って、どんな方だろう)  父の義人(よしと)は会長として未だ現役、母の紗香(さやか)は茶道の師範だという。 「芳樹さん」 「ん?」  芳樹は、マスタングのハンドルを握ったまま、返事をした。 「僕、芳樹さんのご両親にお会いして、本当に大丈夫なんでしょうか」  偽装結婚とはいえ、あまりに身分違いではないか、と青葉は心配していた。 「私がちゃんと説明するから、安心していいよ。青葉は青葉らしく振舞えばいい」  芳樹にそう言ってもらえると、本当にホッとする青葉だ。  二週間の時間は、二人の信頼関係を築いていた。

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