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第六章・2
電車とバスを乗り継ぎ、青葉は久々の安藤邸を訪れた。
「僕がいなくても、ちゃんとお屋敷は回ってるんだな」
当たり前だが、そんな風に思って寂しさを覚えた。
門をくぐり屋敷への道を歩いていると、庭師の小畑(おばた)が青葉を見つけた。
「青葉くんじゃないか! どうしたの? また、ヒマを出されたのかい!?」
職人気質でさばさばした性格の小畑は、思っていることを包み隠さず言うタイプだ。
あんまりな言葉だが、彼が言うと憎めない。
青葉は苦笑いして、頭をかいた。
「智貴さまに、お別れを言いに来ました」
そうかい、と小畑は腕を組んだ。
「突然だったもんねぇ。智貴さまも罪なお人だよ」
しかし小畑は、でもね、と続けた。
「旦那様なら大丈夫だよ。すぐに新しいお小姓さんを傍にお付けなさったから」
「え……?」
「ほら、イヌとかネコとか死んじゃったら、ペットロスにならないように、すぐに次の子を飼う人もいるだろ? あれと同じじゃないかなぁ」
そんな。
智貴さまが、僕の代わりをすぐに。
「あ、ペットロスじゃなくって、青葉ロス、かなぁ?」
がはは、と小畑は笑ったが、青葉の目には涙が浮かんできた。
「小畑さん、智貴さまは今、どこにおいでですか?」
「オープンテラスで、お茶を飲んでおいでだったよ」
ありがとうございます、と言うと、青葉はこっそりそこへ向かった。
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