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第六章・3
小畑の言う通り、緑の芝生にしつらえたテラスで、智貴はお茶を飲んでいた。
(智貴さま)
二週間の時が、たちまち埋まる。
すぐにでもその傍に駆けだしたい気持ちになった青葉だったが、ぐっとこらえた。
一人の少年が、ティーポットを抱えてやってきたのだ。
「智貴さま、お茶のおかわりをお持ちしました」
「ありがとう、瑞穂(みずほ)も掛けなさい。一緒に飲もう」
「そんな、もったいない」
「一人でお茶を飲むのは、つまらないよ。話し相手になってくれ」
「はい」
瑞穂は新しいカップに紅茶を注ぎ、もう一つ自分のお茶も用意した。
しばらくは他愛ない話をしていた二人だったが、智貴の手が伸びた。
そして、瑞穂の手に重ねられたのだ。
「今夜、私の寝室へ」
「いいのですか?」
「もうすっかり、私は瑞穂に夢中だよ」
「恥ずかしいです……」
「嫌かい?」
「……お情け、頂戴いたします」
青葉は、頭を殴られたようなショックを受けた。
小畑の言葉が思い出される。
『ほら、イヌとかネコとか死んじゃったら、ペットロスにならないように、すぐに次の子を飼う人もいるだろ? あれと同じじゃないかなぁ』
僕は、イヌやネコと同じ。
ペットだったんだ。
ぬるい涙が、頬を伝った。
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