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第六章・5

 とにかく、部屋へ行こう。  そう言って青葉の腕を取った芳樹だったが、彼はその場から動こうとしなかった。  仕方がないので、芳樹も植え込みの陰に腰かけた。  青葉に寄り添い、彼が何か話すのを待った。 「……芳樹さんは、いつまで僕をお傍に置いてくださいますか?」  妙なことを言う。  偽装結婚まで持ち出したのだ。  期限など、決めてはいない。 「いつまでも、青葉が好きなだけ居ていいよ」  変に猫なで声にならないように、芳樹はドライな自分を演じた。 「それは、本当ですか? 芳樹さんの気が変われば、僕はまたお暇を出されるのではないですか?」 「少なくとも、私の方からは暇は出さないよ。青葉が私に愛想を尽かしたら、どこかへ出たいと言ってくれ」  再びの、沈黙。  秋の日暮れは早く、肌寒くなってきた。  青葉が風邪をひかないか心配だったが、芳樹は根気強く彼が行動を起こすことを待った。 「僕、αの方は皆お優しいと思っていました」  智貴さまに、芳樹さん。芳樹さんの、お父様。 「でも、今回のことで。αの方は皆、気まぐれなんだ、って……」  後は、言葉にならなかった。  青葉は、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。 「後は、部屋で聞こうか。さ、来るんだ」  これ以上、この寒空に青葉をさらしておくのは良くない。  芳樹は、多少強引に青葉の腕を引き、マンションへ入った。

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