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第七章・2

 芳樹はレモネードを干すと、青葉の背を撫でた。 「じゃあ、私ももう寝ちゃおうかな」 「お仕事は済まれたのですか?」  うん、と芳樹はうなずいた。 「今から青葉を、慰めてあげなきゃね」  青葉は、頬を染めた。 「そんな。別に結構です。気持ちの整理はつきましたから」 「青葉。君は頭がいいから、そう言うだろうけどね。心の柔らかい部分の声も、時には聴かなきゃいけないよ」  いいからいいから、と芳樹は青葉の背を押しながら寝室へ入った。 「あ、エアコン効いてる。気が利くね、ありがとう」 「芳樹さんは、今夜遅くなると思いましたから」  ずっとパソコンとにらめっこしていた芳樹の手足は、冷たくなっていた。 「芳樹さん、書斎のエアコン、付けてなかったんですか?」 「あんまり空気が心地いいと、眠たくなっちゃうからね」  冷たくてごめん、と頬に当てられた芳樹の手を、青葉は舌を出してちろりと舐めた。 「青葉?」 「僕が、温めて差し上げます」  ぺろぺろと、夢中で指を、手のひらを舐める青葉。  ベッドに横になった脚は、芳樹のそれに絡ませてくる。  冷たい手足が急速に熱くなってゆくのは、物理的な刺激のせいだけではなさそうだ。 「青葉、もういいよ。ありがとう」  芳樹はお礼に、青葉の瞼にキスをした。 「明日、目が腫れないように。おまじない」  言ったそばから、青葉はぽろりと涙をこぼした。

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