60 / 169

第九章・2

 青葉の図案を見て、店主はにっこり微笑んだ。 「ハロウィン、でしたね。もうすぐ。和菓子の店には、縁が無いと思っておりましたが」 「作ってくださいますか?」 「菓子職人と相談して、決めさせていただいてもいいでしょうか?」 「もちろんです!」  青葉は、もう自分の考えが形になったかのように喜んだが、店主はやや顔を引き締めた。 「特注となると、少し値が張りますが。しかも、23箱。失礼ですが、お支払いの方は……」  そこで青葉は、芳樹にもらった名刺を手渡した。 「申し遅れました。僕、いえ、わたくし、ナナウラホールディングスの本社で、秘書をしております」  名刺には、ちゃっかり『社長秘書』などと書いてある。  虎の威を借る狐には違いないが、青葉は芳樹の社会的地位を存分に利用する気満々だった。 「失礼いたしました。では、返答はこのアドレスに」 「はい。わたくしの携帯に繋がります」  これでよし、と青葉はうきうきと店を出た。  もちろん、おみやげのお菓子を買うことも忘れなかった。

ともだちにシェアしよう!