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第九章・6

 10月31日、ハロウィンの当日。  芳樹は、みのや特製のお菓子を車に乗せてハンドルを握った。 「青葉、今回は何から何までありがとう。請求書は、ちゃんと私宛にしてくれたね?」 「はい。社長のプライベートとして、ポケットマネーから出していただきました」 「それでいい。本当に、有能な秘書だよ」 「ありがとうございます」  箱の中身は確かめていないが、青葉が考案したデザインのお菓子が、複数個入っているという。  青葉のすることなら、大丈夫。  芳樹は、彼に絶対の信頼を置いていた。 「ああ、やっぱり自動車だと早いですね。もう、こんな所まで来ちゃいました」 「ん? どういうこと?」 「実は僕、芳樹さんに内緒で施設に何度も通ったんです。電車とバスで」 「そうだったのか」  だから家事がおろそかになったり、不在のことがあったりしたんだ。 (青葉を少しでも疑った自分が、恥ずかしいよ)  だがそれは声に出さずに、芳樹はただ運転を続けながら訊いた。 「施設に行って、何をしてたんだ?」 「それは、もうすぐ解ります」  いたずらっぽいまなざしの青葉が、可愛い。  芳樹は楽しみにしながら、車を走らせた。

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