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第十二章 聖夜のプロポーズ

 星のついたホテルを、予約した。  この日のために、新しいスーツも作った。  もちろん、プレゼントだって用意した。 「だのに、なぜクリスマス・イヴに、インフルエンザにかかるんだ!」  かすれた声で吼えた後、芳樹は咳き込んだ。 「大人しく休んでいてください。ショウガ湯、持ってきました」  寝室で横になっている芳樹のために、青葉は世話を焼いていた。 「青葉、こっちへ来ちゃダメだ。インフルがうつる」 「そんなこと言ったって、誰かが芳樹さんを看てなきゃ」  ショウガ湯はインスタントではなく、生の生姜をすりおろしたものを使ってあった。 「ありがとう、青葉」 「飲んで、温まってください」  ベッドに半身だけ起きて、芳樹はふうふうとショウガ湯を飲んだ。  滋養が、体に染み渡って行くようだ。 「美味しい。青葉、これは実に美味いよ」 「お気に入ってくださって、よかった」  だが一方で、芳樹はこんなことも考えていた。 (安藤さんが寝込んだ時も、作ってやってたんだろうなぁ)  子どもじみた妬きもちとはいえ、風邪で弱った心には切ない。

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