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第十二章・2

「なぁ、青葉。安藤さんのところでは、どんなクリスマスを送ってたんだ?」 「それは素敵でしたよ。大きなツリーに、きらびやかなイルミネーション。荘厳な音楽……」 「いいなぁ、安藤さんは。青葉と一緒にイヴを過ごせて」  それには、青葉は手を横に振った。 「僕は、家事使用人でしたから。一緒に過ごすというより、御馳走を食べる智貴さまに給仕をしたり、お客様をおもてなししたりしていました」  そうか。  安藤さんは、青葉と恋人として付き合っていたわけじゃないんだ。 「なるほど解った! よし、起きて支度しよう!」 「寝てなきゃダメです!」  人にうつすと悪いから、外には出ない、と芳樹は言う。  ただ、このマンションで。家で素敵なイヴを過ごしたいと、駄々をこねだした。 「私は料理も得意だよ? それは青葉もよく知っているだろう?」 「熱があるのに、キッチンに立つと危ないです!」 「37度9分。ずいぶん下がったよ」 「夜になると、ぐんと上がるじゃないですか!」  なぁ、と芳樹は青葉の手を取った。 「青葉と出会って、初めてのクリスマス。心に残るものにしたいんだ」 「インフルエンザで、デートがキャンセルになった、というのは非常に心に残ります」  変な作り声で擦り寄ってきてもダメです、と青葉は手厳しい。 「さ、寝て寝て。お布団、かぶって」 「う~」  ショウガ湯の入っていたマグカップを持って、青葉は寝室から出て行ってしまった。

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