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第十二章・3
寝ても寝ても、寝た気がしない。
ずいぶん長いこと眠っていたかと時計を見ると、わずか1時間しか経っていない。
芳樹は心底参っていた。
「喉は痛いし、関節は痛いし、頭は痛いし」
痛くないところが無いじゃないか、と唇をへの字に曲げた。
医者に処方してもらった薬のおかげで、昨日よりは楽、のはずだ。
だが、この倦怠感はなんだろう。
「青葉とデートできなかったからだぁ」
本来なら今頃、ホテルでディナーを楽しんで。
スウィートルームで夜景を楽しんで。
「二人でバスを使った後は、夢のひとときを過ごすはずだったのに」
独り寝の侘しい寝室で、芳樹はため息をついた。
枕の下から、美しいラッピングの施してある小箱を取り出した。
「これ、最高のシチュエーションで渡したかったのに」
青葉への、プレゼントだ。
しかし今の彼は、芳樹の風邪を治すことに夢中だ。
「ありがとうございます。芳樹さんがおかゆを食べた後に、見ますね。……とか言いそうだな」
体調の悪い時でも、イケイケでデートしてきた芳樹。
今回はインフルということもあって、大人しくせざるを得ないが、それを除いても気力の湧かない自分がふがいない。
体力の衰えは、隠せない。
「私も、もう30歳すぎたもんなぁ」
はいはい、年寄りは寝ますよ、と自分で自分を揶揄して、芳樹はベッドに丸くなった。
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