97 / 169

第十四章 お見合い

「ただいま」 「あれ? 芳樹さん、もうお帰りですか?」  1月1日の23時、芳樹は郷里の七浦家からさっさとマンションへ戻ってきた。  年始の挨拶に、親類や各界の名士が次から次へとやってくる七浦の家。  家長の父と共に、嫡男の芳樹も挨拶をしていたが、いいかげん嫌になったのだと言う。 「妙なお世辞を喋るしか能のない人間を相手にするより、青葉と一緒にいた方がいい」 「でも、お父様はお困りではないんですか?」 「構いやしないさ。あんな分からず屋」  ソファにどさりと腰を落とし、芳樹は天井を見上げて息を吐いた。  キッチンで、青葉がコーヒーの準備をしてくれる音がする。 「私は、こんなささやかな幸せを願うだけなのに」  私がいて、傍に青葉がいる。  それだけで、満ち足りた気持ちになる。  だが芳樹の父・義人は青葉を婚約者と認めようとしない。  芳樹の母・紗香(さやか)は青葉との結婚を許さない。  はぁ、と何度目かの溜息をついた時、香り高いコーヒーが運ばれてきた。 「お疲れでしょう? 温まってください」 「ありがとう」  青葉は、黙って芳樹を見ていた。 『構いやしないさ。あんな分からず屋』  芳樹の言葉の裏にある事実を、青葉は悟っていた。 (芳樹さんのお父様は、僕との結婚に反対なんだ)  唇を噛んで、耐えた。  身分違いの恋は、青葉自身が一番よく解っていた。

ともだちにシェアしよう!