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第十四章・2
「全く、あの分からず屋め」
いつの間にか家を抜け出し、姿を消してしまった芳樹を、父・義人は罵っていた。
「いつもでしたら、三が日までここに居てくれるのに。芳樹さん、どうしてしまったのかしら」
紗香の不安げな声に、義人は手をひらひらさせた。
「決まってる。あの加古くんのところに帰ったんだ」
「まあ!」
紗香は驚いたが、次にはすぐに探るような声をひそめた。
「でも、あの子は遊びの相手ではありませんか? 芳樹さんが、あんな子どもを相手に本気になるとは思えません」
「芳樹はあの子のために、襖を蹴破ったんだぞ」
喉で笑いながら、義人は初めて芳樹が青葉を連れてきた日のことを思い出していた。
反抗、反発をしながらも、最後には父親の言いなりになって来た、芳樹。
息子の意外な一面を見た、あの日。
そしてそれは、あの少年が引き出したものに違いないのだ。
「だが、芳樹。今度もお前は、私の言いなりになるよ。絶対にな」
そして義人は紗香に、芳樹の見合いの話をした。
「芳樹が男しか愛せないと言うなら、男をあてがうさ」
「Ωの男性を、ですか?」
気乗りのしない紗香だったが、義人の次の言葉に首を縦に振った。
「相手は、帝都銀行頭取の息子さんだ」
松が明けたら、二人を会わせる。
芳樹の知らないところで、話は着々と進んでいた。
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