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第十四章・6

 会食がすみ、土門親子を見送った後で芳樹は父とコーヒーを飲みながら話をしていた。 「お父様、私をはめましたね」 「罠にはめるも何も。どうだ? いい話だろう!」 「よくありませんよ。全く持って、悪趣味です!」  なにを、と義人は唇を曲げた。 「Ω男性で、加古くんに瓜二つ。だが、家柄も学歴も申し分ない。こんないい話が他にあるか」 「私は、顔や家柄や学歴と結婚するつもりはありませんよ。青葉だから、一緒になりたいんです」 「お前、もう何歳になった? そんな子どもじみた駄々をこねる男に育てた覚えはないぞ」 「とにかく、この縁談はお断りしてください」  バカを言うな、と義人は食い下がって来た。 「あと数回は会ってもらうぞ。ただの一度でお断りなどしてみろ。帝都銀行さんと取引できなくなる」  そこまでで、芳樹は乱暴に椅子から立った。 「芳樹!」 「会いますよ。会えばいいんでしょう。でも、私の伴侶は青葉しかいませんからね!」  背後から父がまだ何か言っていたが、芳樹は振り向きもせずホテルから出た。  駐車場へ行き、マスタングに乗り込み、シートにもたれてスマホを取った。 「もしもし。青葉?」 『芳樹さん、どうしたんですか? 会食、済まれたんですか?』 「疲れたよ……」  それだけ言って、通話を切った。  頭の中には、青葉と彼にそっくりな怜が、並んで立っていた。

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