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第十五章 青葉の父

 しかし、と芳樹は額に手を当てていた。 (青葉にそっくりで、年齢も同じ18歳。こんな偶然が、あるか?) 「芳樹さん、眠れないんですか? 何をお考えですか?」 「青葉、君に双子の兄弟がいたりするか?」 「え?」  芳樹は、会食で引き合わされた帝都銀行の御曹司・怜の話を青葉に語った。 「世の中には、自分にそっくりな人間が三人はいる、というけれど。それにしても、似すぎだよ」 「双子、ですか」  ただの偶然でしょう、という返事を待っていた芳樹だったが、青葉の言葉に身じろいだ。 「もしかしたら、いるかもしれません」 「何だって」  すでに他界した、青葉の父。  死の間際に、一通の封書と名刺を青葉に託したという。 『もし安藤家からお暇を出されて行く当てが無くなった時、これを名刺の人に渡しなさい』 「その時に知らされたんですが、僕は養子だったんです」  青葉の眼が、少し潤んでいる。  父の死を、辛い事実を思い出したのだろう。 「いいよ、青葉。もう話さなくても、いい」  芳樹は、青葉を抱きよせた。  優しい、なだめるようなキスをした。

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