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第十九章・5

 抗がん剤の投薬治療が始まり、青葉は自分の覚悟がどれほど甘かったかを思い知らされた。  ベッドの上で丸く体を縮め、何もできない日々。  突然日常を奪われ、ただ副作用の吐き気をこらえて歯を食いしばっていた。  口内炎が、痛い。そこからの出血で、タオルは真っ赤だ。  食欲が失せ、食べてもすぐ吐いてしまう。  水を飲んでも吐くような有様だ。  食事は点滴に替わり、寝たきりの毎日。  動きたくても、動けない。ひどい倦怠感に襲われていた。  そして。 「あ、話には聞いてたけど、やっぱり」  頭髪や眉毛が、抜け落ち始めた。  いっぺんに抜けてスキンヘッドになってしまえば、いっそ諦めもつくが、そうはいかない。  まだら状に抜け落ち、鏡を見たくなくなった。  顔もむくみ、ぱんぱんに腫れてしまった。 「こんな姿だと、僕は芳樹さんに嫌われるよね」  なかなか会うことのできない、愛しい芳樹を想い、泣いた。

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