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第二十章・4
「もう我が子ではないのだから、そこまでの面倒は見ない、と」
「それはひどい」
父を許してください、と怜は頭を下げた。
「ドナーの手術にも、リスクは伴います。父はそれを恐れているんです」
「確かにな……」
確率は非常に低いとはいえ、死亡するケースもあるのだ。
土門が嫌がるのも、無理もない。
「僕はまだ未成年ですから、ドナーになるには保護者の承諾が必要です」
「それは、解ってる!」
やや声を荒げた芳樹に、怜は驚いて身をすくめた。
「すまない。君に怒鳴っても、解決しないな」
怜は、芳樹を見ていた。
じっと、見ていた。
粋な大人の、洒落た男性だった芳樹。
いつも余裕を持って、軽妙な話題や豊富な知識で怜を楽しませてくれた芳樹は、そこにはいなかった。
ただ一人、青葉のことだけを考えて、周囲に振り回されている悲しい男。
怜は、そんな芳樹に意を決して声をかけた。
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