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第二十章・7
芳樹の車で帝都銀行本店に着いた怜は、息を切らせながら彼の後を追っていた。
なにせ芳樹は大股の早歩きで、今にも駆け出さん勢いで歩いているのだ。
(それだけ芳樹さんは、急いでいるんだな)
そしてそれは、他でもない青葉のためであるのだ。
怜の胸は、ずきずきと痛かった。
(やっぱり芳樹さんは、青葉くんのことを心から愛しているんだ)
怜との結婚も、青葉のため。
どこまでも、怜を愛しているからの結婚、ではないのだ。
「芳樹さん、少し待ってください。僕はもう、追いつけません」
「え? ああ、申し訳ない。急ぎ過ぎたな」
芳樹は、先の方で怜が追いつくのを待っている。
(そして、僕の所まで来てくれはしないんだ)
くっ、と腕で涙をぬぐった。
だがそれは一度きりで、後はまっすぐに芳樹の方へと歩いて行った。
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