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第二十章・8
応接室には土門頭取と、その妻・妙子が待っていた。
「急に訪問いたしまして、申し訳ございません」
「いえいえ、めでたい話ですので大歓迎です!」
頭を下げる芳樹に、土門は明るく笑って見せた。
ソファに掛け、出されたお茶に手も付けず、芳樹は土門に報告した。
「長くお返事ができず、失礼しました。私は、こちらの怜さんと、結婚の意思を固めました」
「電話のお話しどおりですな。嬉しい限りです」
ただし。
「ただし怜くんに、双子の弟・青葉くんのドナーになっていただくことが条件です」
「何ですって!」
父親が何か言う前に、怜も声を上げていた。
「お父様、僕からもお願いします。僕は、弟を。青葉くんを助けたいのです」
土門は、頭ごなしに反対してきた。
「ドナーにも危険は伴うんですよ!? 七浦さん、あなたは怜にそんな役目を負わせるんですか!」
「確かにそうですが、ドナーに健康障害が生じる確率は、交通事故に遭うそれよりも低いんです」
「息子を、危険な目に遭わせるわけにはいきませんな」
怜の頭に、血が上った。
「お父様! いつも僕を政略結婚の駒にしか見ていないのに、こんな時だけ息子扱いはやめてください! それに、青葉くんだって、お父様の息子です!」
涙をぽろぽろ零しながら訴える玲の姿に、土門は、妙子は、そして芳樹はそれぞれの想いを巡らせていた。
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