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第二十一章・3
怜がドナーに決まり、着々と移植の準備が進んでいった。
青葉は無菌病棟を経て無菌室へと移り、芳樹との面会もガラス越しだ。
手すら握れない。
声も、インターホン越しだ。
「お兄様に、心からお礼を言いたいです」
「君の気持ちは、解ってくれてるよ。何たって、双子なんだから」
怜は精密検査の後、ドナーとして完璧な健康状態になるために入院中なのだ。
青葉を見舞うことも、できなくなっている。
でも、と青葉は言った。
「芳樹さんのおっしゃるとおり、時々お兄様の声が聞こえる気がするんです。がんばれ、って」
「それはきっと空耳なんかじゃない。本当に聞こえてるんだよ」
ガラス越しに手を合わせ、芳樹と青葉は語り合った。
声だけでなく、目と目で語り合った。
信じてる、きっとうまくいく。
「早く、青葉の淹れてくれた美味しいコーヒーが飲みたいよ」
「退院したら、すぐに淹れて差し上げますね」
「青葉。これが最後の面会だから、ちゃんと言っておくけど」
「何でしょう」
「愛してるよ。誰よりも、愛してる」
「僕も芳樹さんを、愛してます」
隔てられた二人の目から、涙が流れた。
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