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第2話

 ゴールデンウィークを過ぎたあたりから、急に蒸し暑くなってきた気がする。学ランを脱いだ冬服が汗で張り付いていた。  部活が終わっても、自主練という名の仲間達と過ごすぐだぐだ時間を送っていると、気づけば20時を過ぎている。  慌てて帰宅する準備をし弓道場を出て、校門近くにある自動販売機でスポーツドリンクを買った。キャップを開けグビグビと飲んでいると、僕を待っている来夢が痺れをを切らして「まだか」と言う。 「ごめん、凄く喉乾いててさ」 「風雅、いつも水筒1本だけしか飲み物用意していないだろ。部活開始前に買っておけばいいのにさ」  そうやりとりをしながら、ふたりで並んで学校を出た。 「そうは思っていても、何か忙しいから忘れるんだよね」 「いつもせかせかしてるからな。偶には落ち着いて過ごしてみたらどうだ」  うーん、と唸る。確かにドジを踏むのは焦っているときだ。でも余裕を持って行動するのは僕の性に合わない。 「まあ、自分なりにどう過ごせばいいのか探していけばいいさ。自覚がある分、改善しがいがあるからな」 「いや、でもさ来夢、すぐに直していきたいんだけど……」 「すぐにどうこう出来る問題じゃないだろうよ。焦らずゆっくりだ」  それでも、と考えてしまう。  昔からこうだった。何かと忘れ物はするし、平気で待ち合わせ時間を破るし、大切な書類を無くしては慌てたり。前から気づいているというのに、対策を自分なりに練っても何も変わらなかった。 「僕、変われると思うかな」 「変わりたいと思っていれば、変われるさ。努力も必用だけどな」 「はーい……」  これ以上、一体何を努力すればいいんだろう。 「意外と甘いよね、って」 「どこがだ」 「こうして部活が終わっても、しばらく弓道場にいてみんなが遊んでいても放っておくあたり」  周囲がはしゃぐ中、来夢はひっそりと練習を続けていた。彼女が部長になってからはその態度に注意を受けるのでは、と懸念していたが、意外にも何も言及しなかった。 「別に、部活が解散したら後はどう過ごすか自由だろうさ。遊んでいい、とっとと帰ってもいい、続けて個人練習してもいい」 「ふぅん。確かにそうだね」 「何も私はただ厳しいだけの部長じゃないだろ。結構いい加減なところがあると思うし、あまり拘束しすぎるのはどうかと思ってる」 「なんか流石だね。ずっと前から考えがしっかりしてる。ちょっとだらしないところがあるのはどうかと思うけど」 「人間は欠点があると魅力的に見えるだろ」  はいはい、と聞き流す。  来夢のことは人格者だと思っているが、どうもナルシストなきらいがある。そして、もっとろくでもない欠点があり……。 「ちょっと、見たか風雅。今すれ違ったチャリンコカップルの片割れ女子。いい具合にロリ顔貧乳だぜ。彼氏ずるいわぁ……」  彼女は、どうしようもないほど女好きだった。それもロリコン寄りの。 「最っ低。今の絶対聞こえてたから」 「いやでもだって、あの子最高だっただろ」 「そういう問題じゃないんだよなあ……」  本当、こんなアホな部分さえなければいいのに。  今すれ違った女子は、特別進学コースの新垣(あらがき)さんだ。大人しいが、僕から見てもめちゃくちゃ可愛い。  時々なぜか僕に調理実習で作りすぎたから、とお菓子をくれる。彼氏と付き合うようになってからは、流石にそういうことはなくなったけど。  そんな彼女の彼氏は、同じクラスの氏家君だ。どうも僕が新垣さんと交流があることもあって、氏家君には目の敵にされている気がする。勝手に巻き込むなよと言いたい。 「それにしても、あんた恋愛小説なんかを読むくせに、本当女っ気がないよな。てっきり高校に上がれば色恋話が聞けると思ってたのに」 「だから、まだ恋したことないんだって。今日もそれ言ってクラスメイトがしんみりしてた」 「そりゃ、あんたモテるからだろうよ。風雅と関わりがあるせいで、ほかの女子からの嫉妬が凄い。色々自覚しろ、私は被害者だ」 「いやいやそんな、ご冗談を」  僕がそう言うと、隣で大きいため息を吐かれた。 「あのなあ、去年の文化祭で軽音部のステージに立って歌っただろ。それがきっかけで世が雁翼フィーバー突入よ」 「何だよ雁翼フィーバーって……そもそも歌ったのは、無理矢理軽音部の友達に頼まれたんだよ。本当は目立ちたくないしやりたくなかった」  友達というのは、久方と入江のことだ。あいつらはただのオタクに見えるようで、意外と楽器の演奏ができる。詳しくないからあまり話を聞いていないけど。 「でも、歌うことは好きなんだろ。私を連れてよくカラオケに行くじゃないか」 「そりゃあ、そうだけど……」  それでも、人前で歌うかどうかは話が別だ。 「それでも僕、目つき悪いから。それでしょっちゅうからかわれてただろ。だから、モテるんじゃなくて悪目立ちしてるだけだと思うんだけど」 「あんたの場合、目つきが悪いんじゃなくて、顔立ちが良い故の嫉妬だったと思うけど。それに歌ったとき、声がエロいとかどうとかで女子悶絶だったからな。風雅の歌声は凶器だってこと肝に銘じておけ」  全く持って実感のない話をされても、理解出来なかった。 「ま、いずれ分かる日が来るかもだな。もしかしたら、一生自覚できない話かもしれないけど。それも焦らずにってことさ」  何かを理解した風に来夢は言うが、このことに関しては実感出来ずに首を傾げた。

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