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第8話

   それから僕らは、無言でロッジまで戻った。来夢にあの男の武器を奪っておけ、と言われ護身用にハンドガンを拝借する。まだ銃は、人が持っていた温もりを感じていた。生々しくて吐き気がする。  ロッジ内で弓束君は相変わらずベッドで横になっており、無事であることに安堵した。 「これで、自覚できただろ。このゲームは、本気で命の取り合いをするものだって。もし誰かに入られたとしたら、弓束はいつ殺されてもおかしくなかった」  来夢の言う通りだ。背中や手のひらから、ひんやりとした汗が流れ出る。今ゲームに足掻けられるのは来夢の存在もあるが、何よりも弓束君を守る意識があったからだ。それなのに僕は、弓束君のことを置いて見知らぬ女性の悲鳴に駆け付けた。あまりにも、自分勝手な行動だった。 「次からは、絶対に離れない……傍にいるから。約束する」  僕は弓束君の手を握る。僕よりも冷たい手だったが、血が通っていた。ほのかに温かみがあり、彼が生きているのを実感する。 「王子っていうか、まるでお姫様ってところだな……そろそろ、ここから出るぞ。禁止区域外のシェルターを探す。弓束のことは任せたよ」  ひらり、と来夢は長い黒髪をなびかせてとっとと外へ出ていく。慌てて僕は、弓束君の傷に注意しながら彼を担いだ。  外に出ると、来夢は呆れたようにため息を吐く。 「風雅、あんた……鞄はどうしたんだ」 「あ、やばい、忘れてた」 「急いで取ってきな。弓束君の分まで忘れずな」  投げやりに返事をし、ロッジまで戻ってふたり分の鞄を手に持ち、また外へ出た。相変わらず、僕はそそっかしい。こんな異常事態にも関わらず、悪い癖は治らないようだ。  来夢はステージを再度、現実世界と共有されているものに変更した。これならマップが把握しやすい、とのことだった。この周辺の禁止区域から外れると、うちの高校やその近辺が安全だ。僕達は一先ずそこまで歩くことにした。  暑いから涼みたい、という理由の満場一致で学校の敷地内にある裏山で休憩することになった。周囲を常に警戒しているため、気持ちは全く落ち着かないが移動よりは気楽だ。  弓束君をベンチに座らせて、僕達もその横に並び腰を下ろす。 「ここはいいよね。偶にこのベンチでぼんやりしてる」 「げっ、あんたこんなジメジメした場所にいるの。しかもひとりで?」 「そりゃあ、もう。ひとりきりで考え事したいときに来てる。それで、僕を教室に連れ戻しに友達がやってくる」 「風雅にまともな友達がいてくれて、本当に良かったよ……変に崇められているから、普通に話しかけてくる人がいないんじゃって勝手に心配してたけど、杞憂だったか」  僕が崇められている、の意味がわからず首を傾げる。その様子を見て来夢は何でもない、と口を尖らせた。 「弓束とはどんな話をしてたんだ。クラスメイトなんだろ」 「別に、普通。昨日は日直だったんだけど、その相方がさぼりやがったのを知ってくれて色々手伝ってくれた。本当に、昨日までは優しくて明るい人だったから、今の弓束君を見ていて悲しくなるよ」 「風雅、それは普通って言えないぞ。親しい仲でもないのに、わざわざ日直の仕事手伝ってくれる人って普通いるか」  腕を組んで、虚空を睨む。3秒くらいぐるぐる考えて、出てきた答えはこれだ。 「……偶にいる」 「あんたに聞いた私が馬鹿だった」  来夢は項垂れて、大袈裟に頭を抱えた。微妙な回答のようだ。  そうこう話していると、弓束君は僕の肩に頭を乗せてきた。突然のことで動揺するが、内心胸をくすぐられるような感覚がする。思わず弓束君の頭を撫でると、来夢は舌打ちをひとつ鳴らした。 「な、なにっ」 「別にぃ。よくもまあ、堂々といちゃつきやがって。全く弓束王子は困ったもんだな」  僕ではなく、弓束君に対して言っているようだった。 「弓束君、こんな状態なのに一応意識はあるのかな……」 「あんたにべったりなところは、正直疑いたくなるね。わざと弱ったようにしてるみたいで、妙にあざといというか」  来夢の斜に構えた言い方に、ついむかっとくる。 「僕から見たら、弓束君は朦朧とした様子にしか見えないけど。弓束君を悪く言うなよ、こんな大変な状態なのに」 「……それもそうだよな。ごめん、変な風に言って」  来夢は勘違いか? などとぶつぶつ呟いていた。納得していない様子だ。それを見て複雑な気分になったが、見知った姿を遠目から見かけて、僕はつい声を上げた。 「どうした」 「いや、僕の友達がいた気がして。ちょっと傍に寄ってもいいかな」  数秒置いて、来夢は頷く。内心はやめてほしいのだろう。それでも、近づいて姿を見たかった。  弓束君を肩に担ぎ歩く。来夢も後ろからついてきてくれた。じりじりと近づくと、その姿は久方と入江に、なぜか氏家君もいた。どういう取り合わせなんだろう。 「友達だったか」 「うん。そのうちひとりは弓束君の友達だけど。おかしいな、殆ど関わりがないのに」  僕達の姿が見えないのをいいことに、大胆に近づき聞き耳を立てる。この3人が一体どのような会話をするのか、純粋に興味があった。  だが、聞き耳を立てたことに後悔する。耳をした言葉に、僕の名前が出てきていた。 「……だから、さっきから言ってんだろ。聞こえねぇのか。雁翼が今日休みなのって、行方不明だからか。お前らなら何か知ってんだろ、どうなんだ」  氏家君の口から、衝撃的な一言が飛び出していた。

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