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第3話

 きっと今も、そのままなんだろう。インタビューを読みながら、懐かしい声を思い出してしまう。訓練されたアナウンサーのように滑らかな声で祐樹の名を呼ぶ人だった。  トロフィーを持つ笑顔は昔のままで祐樹はうれしくなる。10代のじぶんはこんないい男と付き合っていたのか。  当時もそう思ってはいたが、あのときの東雲と同じ年齢になって、よりそれを実感できるようになっていた。  彼と別れてもう7年近く経ったのか。  ……案外あっという間だったな。 「お待たせしました、高橋さま、こちらへどうぞ」  名前を呼ばれて、はっと顔をあげた。  一瞬で過去から現在、土曜日の午後の美容室に呼び戻されて、祐樹は目を瞬いた。  ガラス張りの明るい店内に目がくらみそうになる。アシスタントの若い男性が祐樹を手招いていた。  雑誌を閉じてマガジンラックに戻し、ゆっくり立ち上がった。  シャンプー台の前の椅子に座りながら、不意に贈り物をしてみようかと思いつく。 「今回はどうします?」 「当分来れそうにないから、お任せしようかな。短めにしてもらって、手入れが楽な感じで。さ来週からまた中国なんだ」 「ってことは今度は長いんですか?」 「うん。予定では2年」 「2年? あー、じゃあホントにしばらく来れないですね。っていうか、向こうの水とかだいじょうぶですか? 髪痛みそうですよね」  日本のように水が豊富でもなく断水も頻発する中国の現状は、この若い美容師には想像もつかないだろう。  髪が傷むどころか生活の水もまだ貴重なのだ。蛇口をひねっても水が出るとは限らない。  でも日本でなに不自由なく暮らす彼にそんな話をしてもしょうがない。中国の状況を一般の日本人はほとんど知らないし、話したところで共感できるものではない。  だから祐樹はやわらかな笑みを浮かべてただ、「そうかもね」と穏やかに答えた。

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