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第6話

「高校のとき彼女とつき合ってた時より、おれは彼と一緒にいるほうが自然でいられるんだ」  あの頃つき合った子たちには、祐樹なりに精いっぱいやさしくしたつもりだった。  こうしたい、あそこに行きたいという要望にはできるだけ応えたし、誕生日やクリスマスなどのイベントもちゃんと準備した。  相手に誘われたらキスもその先も断ったことはない。礼儀としてこちらから誘いもした。でもじぶんから欲しいと思ったことは、結局一度もなかったのだ。  そうやって無理をしてつき合って、罪悪感とストレスに耐えかねて別れることの繰り返しだった。そう聞かされて、達樹は顔色を失った。 「女の子とつき合うのが、そんなに辛かったのか?」 「うん。おれなりに努力はしたんだ。今度こそ好きになるかもしれないって。いつも女の子を好きにならなきゃって思ってた。でも努力じゃ何ともできないことってあるんだ」  気持ちを努力でコントロールするのは無理だったのだ。  高校2年生の冬、胃が痛くなってストレスで吐いたとき、祐樹はもうやめようと決心した。  気持ちのないおつき合いをして、吐くほど無理をして頑張るのが空しくなったのだ。  じぶんの心を偽る行為の苦しさは祐樹の心を傷つけて、体のほうが音を上げた。  一体、何のためにこんなことをしているんだろう。「普通」からはみ出るのはそんなに怖いことだろうか。  図書館でこっそり性的マイノリティについての話を読んで、じぶんはゲイなんだともう自覚はできている。これ以上の努力はしても無駄だと祐樹は悟っていた。  同じ家で暮らしていながら、そんなことにはまったく気づいていなかった達樹はショックを受けたようで黙り込んだ。  それはそうだろう。  逆の立場だったら、じぶんだってショックだ。 「高校3年間、じぶんの違和感と向き合って、やっぱりおれは男が好きなんだって認めるしかなかった。だから大学生になったらもうじぶんに嘘をつくのはやめにした。今後は女性とはつき合わない。そうじぶんに許そうって決めたんだ」  静かな宣言を、達樹は厳しい顔つきで聞いていた。

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