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第11話
そんなきみに無理を承知で言うけど、あいつの将来のためにどうか穏便に別れてやってくれないか、と青山は祐樹に頭を下げた。
穏便に?と祐樹は首をかしげた。別れて欲しいという意味はわかるが、穏便にとはどういうことを指すんだろう? 泣いたり怒ったりするなってこと?
過去の女の子たちとの別れ話を思い出した。
「つまり、ふたりの関係を周囲にばらすとか脅すとか、そういうことをしないで欲しいってことだよ」
それまで考えたこともないことだったので、とても驚いた。
「思ってもみなかったって顔だね。だから東雲はきみを大事にしてるんだろうな」
青山は苦しそうな表情で、冷めたコーヒーを飲んだ。
ひとりになって考えたら、結論はすぐに出た。
祐樹にしてみれば、東雲が女性と結婚できるのであれば、絶対にその方がいいと本心から思った。
いくら好きでつき合っていても、祐樹が相手では将来結婚できるわけでも、子供を産んでやれるわけでもない。
この話がなかったとしても、今後、東雲がメジャーになっていくとしたら、祐樹の存在は足手まといになるくらいだ。つき合っているとバレたら東雲のスキャンダルになりかねない。
しかも見合いの相手は東雲にとって申し分ない家柄のお嬢さんだという。この機会を棒に振るのは東雲の将来をつぶすことになるだろう。
だから言わば、祐樹から身を引く形でふたりは別れた。
青山が勝手に祐樹に事情を打明けたことに東雲は怒りを爆発させて殴り合いになったらしい。そんな激しさが東雲にあったことに驚いたし、そこまで思ってくれていたことをうれしくも思った。
もちろん別れは悲しかったし寂しかったが、祐樹とのあいだには殴り合いも言い争いもなく、話しあいの末に最終的には別れを選んだ。
最後に会いたい、と呼び出されたホテルで、朝が来るまで体中が溶けだすような濃厚なセックスをした。東雲は何度も祐樹を求め、祐樹も果てがない快楽に溺れていつの間にか意識を飛ばした。
朝になり、幸福な気だるさの残る体で、祐樹はまだベッドにいた。
上半身を起こして枕に体を預けて東雲が身支度をするのを眺めていた。
この人が本当に好きだった。
穏やかに見えるけれど、実際はかなり情熱家でものすごいエネルギーを仕事に注いでいる人だった。そして遊びにも恋愛にも貪欲で積極的で、祐樹は東雲からたくさんの愛情をもらった。
10歳も離れていたけれど本気で嫉妬もしてくれたしケンカもした。
もう会えなくなるなんて、嘘みたいだ。
ぼんやりとそんなことを思う。
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