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. 新たな生活

家路に着く途中、ロボット特有のぎこちない動きを一切見せずスタスタと歩いていく彼が、本物の人間なんじゃないかと錯覚するほどだった。 ここまで滑らかに動けるものなんだなあ。 そういえば、なんでこいつがヨリヒトのモルモットになったのか聞けばよかった。なんて考えていると、自宅に到着した。 「あーこっちこっち。そこ、段差あるからな。」 鞄から自宅の鍵を取り出し、錠を開ける。 段差を上がって、靴を脱ぐ仕草も、何ら不便なさそうだ。 よくできてるな。と横から見ていると、目が合った。 「ああ、悪い。そういやお前、名前あるのか?」 彼は、ふと何かを考える様に一点を見つめてから、ゆっくり口を開いた。 「………っ。」 「ん?どうした。」 俯いている彼を覗き込むと、喉がひく、ひくと僅かに動いている。 言語は問題ないと言ってたが……。 なんだ、喋り方を忘れたのか? 大丈夫か。と肩に手を置いたその瞬間、びくっと肩を揺らした。 「ごめん。驚かすつもりはなかったんだ。話せるか?」 肩から手を離して彼の目の前にしゃがみこむと、ふるふると肩を揺らしはじめる。 え、もしかして泣………?! しまったと思い、慌てて手を差し伸べた瞬間、 「お、おい!大丈夫か!……って、ええ!何これ!」 咳き込んだ彼の口からは、大量の薄緑色の液体が漏れている。 げえ!気持ち悪!と、手についた液体を払うと嗅いだ覚えのある、つん、とした化学薬品の香りがした。もしかしてこれって、 「お前っ、水槽の水飲んでたんなら早めに言え!!」 急いで彼を洗面所へと連れて行った。 「すみ、ませんでした…。」 「いいけど…、さっきの水で床変色したから、また吐きそうならすぐトイレ行けよ。」 「はい……。」 彼は口元を袖で拭って、申し訳なさそうに何度も頭を下げる。 「そんな怒ってないから、とりあえず水。」 そういえば、こいつは飯食っていいのか?と疑問が浮かぶ。コップを差し出すのを躊躇っていると、彼はあっさり受け取り、一気に水を平らげた。 「あ、飲んでいいんだ。」 「?どういう、事ですか?」 不思議そうに片眉を上げる彼に、ああ、何でもない。と告げる。なるほど、ちゃんと喋れるし飲食も問題ないのか。 「そう言えば、名前、でしたよね。俺、キョウヘイ、って言います。」 「へえ、キョウヘイ君ね。俺はアキラ。今日からよろしくね。」 キョウヘイは浅くお辞儀をすると、「アキラ、さん…。」と小さく呟いた。

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